研究課題
炎症メモリーは、生物種を超えて多様な細胞に存在し、生体防御および恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられるが、どの細胞に記憶されるのか、またどのような分子メカニズムで記憶されるかなど、不明な点が多い。また、マクロファージ・樹状細胞に代表される単球系細胞は、環境要因によって特徴的なサブセットへと極性化し(M1/M2マクロファージなど)、様々な病態に影響を及ぼすが、そのエピジェネティックな制御機構に関しては不明な点が多い。そこで本研究では、1)炎症メモリーの構築・維持・消去に関わる分子メカニズムの解明、2)ヒストン脱メチル化酵素KDM7に注目して樹状細胞・マクロファージのサブセットバランスのエピジェネティックな制御機構の解明を行うことで、「炎症メモリーを獲得した炎症細胞サブセットが、個体の表現型のバランスを規定する」という仮説を検証する。本年行った詳細な検討から、マクロファージにおける炎症記憶では、その多くが5日間以上記憶されること、またその記憶の維持にはメバロン酸代謝変動が重要なことがわかった。一方で、M2マクロファージ 極性化の抑制因子としてH3K9/K27me2ヒストン脱 メチル化酵素KDM7Aを同定した。KDM7Aは、特にTGM2遺伝子の発現制御を介して、M2マクロファージの機能を調節している可能性が示唆された。またKDM7Aは、TGM2 promoterのH3K4me3を抑制する結果を得ており、分子機序の解析を進めている。また、ヒト突発性肺線維症(IPF)患者のシングルセルRNA-seq解析の結果から、KDM7Aはマクロファージにおいて、M2マーカーと相互排他的に発現することがわかった。また健常者と比較して、IPF患者由来マクロファージでは、発現低下が認められた。これは、KDM7AがM2極性化の抑制因子として働くという結果が、ヒトにおいても矛盾しないことを示している。
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