研究課題/領域番号 |
20K07332
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
秋山 伸子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (60342739)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胸腺上皮細胞 |
研究実績の概要 |
自己免疫疾患の治療や予防には、その発症機構を理解することが重要である。胸腺の髄質に局在する上皮細胞(髄質上皮細胞;mTEC)は自己免疫疾患の発症抑制に必須である。しかし、その分化・維持機構については十分に解明されていない。申請者らはこれまでに、mTEC の分化に必須な TNF レセプターファミリー RANK の発現を指標に、胎仔期において mTEC に特化して分化する前駆細胞を同定した(J Exp Med. 2016, 213:1441)。一方、成体における mTEC の維持機構については、実体は明らかでない。申請者らは最近、TNF レセプターファミリー RANK と CD40 シグナルの両方を、成体期で一時的に遮断したマウスから、mTEC 前駆細胞候補と考えられる細胞集団を得た(未発表)。本研究課題は、成体における mTEC 前駆細胞を同定し、その細胞の特性を解析することにより、mTEC の分化・維持機構の解明を目指す。 これまでに、TNF レセプターファミリーRANKとCD40シグナルが、胸腺発生期のmTEC の分化を制御することが判明している。申請者は、成体における mTECの分化にもRANK と CD40 のシグナルが重要であり、両者のシグナルを遮断すると成体 mTEC 前駆細胞の候補が得られると予想した。そこで CD40 欠損マウスに RANK リガンド 中和抗体を投与し、胸腺上皮細胞を解析したところ、成熟 mTEC( mTEChi )は完全に消失し、mTEC マーカーを発現するが成熟マーカー CD80を発現しない細胞群を同定した。この新規細胞を 成体 mTEC 前駆細胞候補とし、採取してRNAseq解析を行った。その結果、この細胞群ではPsmb11やPrss16といった皮質上皮細胞(cTEC)マーカーを高く発現していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mTEC分化のシグナルを遮断することにより、新規細胞集団を検出することに成功した。その細胞集団を 成体 mTEC 前駆細胞候補とし、採取してRNAseq解析を行った。その結果、この細胞群ではPsmb11やPrss16といった皮質上皮細胞(cTEC)マーカーを高く発現していることが明らかとなった。このような細胞集団はシングルセル発現解析でも検出されている。 現在、成体 mTEC前駆細胞が、成熟した髄質上皮細胞に分化するのか、胸腺再構成実験と移植実験により検証実験を実施している。4 週齢の C57BL/6 背景の CD40 欠損マウスに RANK リガンド中和抗体を投与し、2 週間後に胸腺を採取、コラゲナーゼにより単細胞とし、セルソーターにより mTEC 前駆細胞候補を分取した。一方で胎仔マウス胸腺を単細胞とし、mTEC 前駆細胞候補を混合させ、in vitro で培養することで胸腺器官を再構成した。再構成した胸腺をヌードマウスの腎皮膜下に移植し、4 週間後に移植した胸腺の上皮細胞をフローサイトメーターで解析することにより、前駆細胞候補が成熟した髄質上皮細胞に分化できるのかを検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
計画1) 成体mTEC前駆細胞候補の自己免疫寛容誘導能を検証する。成体mTEC前駆細胞を分取し、胸腺髄質上皮細胞が分化しない aly/aly マウス胎児胸腺との胸腺再構成実験を行い、再構成した胸腺をヌードマウスに移植する。Aly/aly マウスの胎仔胸腺だけを移植したヌードマウスは自己免疫となるが、mTEC前駆細胞候補が、機能的な mTEC に分化した場合には自己免疫は抑制される。 計画2) 成体 mTEC 前駆細胞候補の維持を制御する機構を同定する。成体 mTEC 前駆細胞候補の特性や維持機構を解明するために、前駆細胞候補で選択的に高く(あるいは低く)発現する因子を同定する。 計画3) 1 細胞移植により成体mTEC前駆細胞の幹細胞性を検証する。成体 mTEC 前駆細胞が幹細胞であるのかを検証するために、1 細胞の移植実験を行う。mTEC 前駆細胞をセルソーターで分取後、単一細胞をマイクロインジェクションにより、胎仔胸腺に移植する。前駆細胞が幹細胞としての性質を持つ場合、1 細胞から、全ての mTECに分化すると予想され、免疫組織染色とシングルセル遺伝子発現解析により検証する。 すなわち、1細胞移植して 4 週間後に、胸腺を免疫組織染色で解析し、移植した細胞がAire 陽性髄質上皮細胞に分化しているのか検証する。また、移植した胸腺をコラゲナーゼで単細胞とし、前駆細胞から分化した細胞を、1細胞ごとセルソーターで 96 ウェルプレートに分取し、RamDA-seq 法によるシングルセル遺伝子発現解析を行う。分取した各単一細胞の遺伝子発現を、計画3) で得た mTEC 画分の遺伝子発現と比較することで、全ての mTECに分化しているのか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在行っている成体胸腺上皮細胞と胎仔胸腺細胞の再構成実験において、当初、B6背景の成体胸腺上皮細胞とBalb/c背景の胎仔胸腺細胞を再構成する予定であった。しかし、系統が異なる細胞を再構成するよりも、同系統由来の細胞を用いて再構成した方が、成体胸腺上皮細胞が維持されることが明らかとなった。B6系統のレポーターマウスで再構成実験を行い、分化前と分化後の胸腺上皮細胞を採取し、RNAseq解析を行う予定である。 細胞分散用酵素6万円、FACS用抗体5万円、次世代シークエンス費用13万円、セルソーター利用料3万円、妊娠マウス購入費用5万円、マウス維持費用3万円。
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