研究課題
自己免疫疾患の治療や予防には、その発症機構を理解することが重要である。胸腺の髄質に局在する上皮細胞(髄質上皮細胞;mTEC)は自己免疫疾患の発症抑制に必須である。しかし、その分化・維持機構については十分に解明されていない。申請者らはこれまでに、mTEC の分化に必須な TNF レセプターファミリー RANK の発現を指標に、胎仔期において mTEC に特化して分化する前駆細胞を同定した。一方、成体における mTEC の維持機構については、実体は明らかでない。申請者らは RANK と CD40の両シグナルについて成体期で一時的に遮断したマウスから、mTEC 前駆細胞候補と考えられる細胞集団を得た。本研究課題は、成体における mTEC 前駆細胞を同定し、その細胞の特性を解析することにより、mTEC の分化・維持機構の解明を目指す。申請者は、成体における mTECの分化にもRANK と CD40 のシグナルが重要であり、両者のシグナルを遮断すると成体 mTEC 前駆細胞の候補が得られると予想した。そこで CD40 欠損マウスに RANK リガンド 中和抗体を投与し、胸腺上皮細胞を解析したところ、成熟 mTEC(mTEChi)は完全に消失し、mTEC マーカーを発現するが成熟マーカー CD80を発現しない細胞群を同定した。この新規細胞群を 成体 mTEC 前駆細胞候補とし、採取してシングルセル発現解析を行った。その結果、この新規細胞群において cTEC および Unidentified TECs クラスターの割合が増加していた。申請者はこれらのクラスターの中に成体 mTEC 前駆細胞の候補が含まれていると予想している。成体 mTEC 前駆細胞を採取する目的で、そのクラスター特異的に発現の高い細胞表面タンパク質を探索し、前駆細胞のマーカーとして利用出来ないか検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度はシングルセル発現解析を行い、前駆細胞のマーカー候補分子を得ることが出来た。来年度はマーカー分子の抗体を用いて候補分子の分取し、その性質を明らかにする。
計画1) 成体mTEC前駆細胞候補の自己免疫寛容誘導能を検証する。成体mTEC前駆細胞を分取し、胸腺髄質上皮細胞が分化しない aly/aly マウス胎児胸腺との胸腺再構成実験を行い、再構成した胸腺をヌードマウスに移植する。Aly/aly マウスの胎仔胸腺だけを移植したヌードマウスは自己免疫となるが、mTEC前駆細胞候補が、機能的な mTEC に分化した場合には自己免疫は抑制される。計画2) 成体 mTEC 前駆細胞候補の維持を制御する機構を同定する。成体 mTEC 前駆細胞候補の特性や維持機構を解明するために、前駆細胞候補で選択的に高く(あるいは低く)発現する因子を同定する。計画3) 1 細胞移植により成体mTEC前駆細胞の幹細胞性を検証する。成体 mTEC 前駆細胞が幹細胞であるのかを検証するために、1 細胞の移植実験を行う。mTEC 前駆細胞をセルソーターで分取後、単一細胞をマイクロインジェクションにより、胎仔胸腺に移植する。前駆細胞が幹細胞としての性質を持つ場合、1 細胞から、全ての mTECに分化すると予想され、免疫組織染色とシングルセル遺伝子発現解析により検証する。すなわち、1細胞移植して 4 週間後に、胸腺を免疫組織染色で解析し、移植した細胞がAire 陽性髄質上皮細胞に分化しているのか検証する。また、移植した胸腺をコラゲナーゼで単細胞とし、前駆細胞から分化した細胞を、1細胞ごとセルソーターで 96 ウェルプレートに分取し、RamDA-seq 法によるシングルセル遺伝子発現解析を行う。分取した各単一細胞の遺伝子発現を、計画3) で得た mTEC 画分の遺伝子発現と比較することで、全ての mTECに分化しているのか検証する。
CD40KOの母親マウスが弱く、子育て中に死亡する例が多く生じた。マウスの交配数を増やし、実験に必要な個体数を得たが、マウス数の確保に時間がかかり、計画に遅れが生じた。また、成体mTEC前駆体候補分子の抗体の入荷が遅れた。細胞分散用酵素6万円、FACS用抗体5万円、次世代シークエンス費用13万円、セルソーター利用料3万円、妊娠マウス購入費用5万円、マウス維持費用3万円。
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The Journal of Immunology
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