自己免疫疾患の治療や予防には、その発症機構を理解することが重要である。胸腺の髄質に局在する上皮細胞(mTEC)は自己免疫疾患の発症抑制に必須である。一方、成体における mTEC の分化・維持機構については、実体は明らかでない。本研究課題は、成体における mTEC 前駆細胞を同定し、その細胞の特性を解析することにより、mTEC の分化・維持機構の解明を目指す。 我々はTNF レセプターファミリー RANK と CD40の両シグナルについて成体期で一時的に遮断したマウスから胸腺上皮細胞を採取し、シングルセル発現解析を行った。RANK ・ CD40シグナル遮断時に増える新規クラスターを成体 mTEC 前駆細胞候補とし、そのクラスター特異的に発現の高い細胞表面タンパク質を探索した。その結果、候補クラスター特異的に発現の高い遺伝子の一つとして X を同定した。そこで X の GFP レポーターマウスを導入し、FACS 解析を行なった。その結果、X は成熟 mTEChiにはほとんど発現しておらず、cTECおよび未分化の集団 mTEClo で発現が高いことが分かった。次に X を発現する胸腺上皮の細胞集団を採取し、遺伝子発現解析を行なった。その結果、mTECマーカー(UEA-1)および cTECマーカー(Ly51)両陰性の X 陽性画分では、幹細胞マーカー(Serpinf1、Tnfrsf19、Trp63)を発現していた。この結果は、X を発現する胸腺上皮細胞が幹細胞性を持つことを示唆している。X 陽性胸腺上皮細胞の局在を調べる目的で、GFP レポーターマウスの免疫組織化学染を行なった。その結果、cTEC領域もしくはcTECとmTECの境界領域で GFP が検出された。この結果は、X 陽性細胞が cTEC と mTEC のどちらかに分化する前段階の細胞である可能性を示唆している。
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