研究課題
ミトコンドリア病は、細胞内ミトコンドリアの電子伝達系障害によりATP産生が低下する疾患であるが、その根本的な治療法はない。研究代表者らは、心筋細胞において低酸素下でATP産生を増強し細胞保護的に働くATP産生制御因子G0S2のタンパク質分解メカニズムを明らかにし、分解を阻害することでATP産生を増強させる化合物を同定した。本研究では、ATP産生増強化合物による特異的なG0S2分解阻害メカニズムの生化学的手法による解明を目指す。R2年度は、まずATP産生増強化合物のG0S2タンパク質への結合部位の同定を試みた。293T細胞にG0S2を発現させたのち化合物を添加し精製し、質量分析によって1か所のアミノ酸のみに共有結合していることを明らかにした。またその結合部位の変異体G0S2は化合物による分解阻害を認めなかった。次に部位特異的細胞内光クロスリンク法を用いて、G0S2特異的な分解メカニズムに関わる因子の探索を進めた。その結果G0S2-C末端に結合する新規因子Xを同定した。XはG0S2の分解制御に関わるBAG6との関連性が示唆されており、今後G0S2分解機構への関わりについて解析を進めていく。BINDSの協力によりヒット化合物の物性改善も進めており、20化合物の新規合成と活性評価を終えている。またミトコンドリア患者細胞を用いてG0S2の発現検討を行ったが、患者由来線維芽細胞や筋芽細胞ではG0S2発現を認めなかった。今後は筋芽細胞を筋細胞へ分化させG0S2の発現を検討する。
2: おおむね順調に進展している
初年度の目的の一つであるG0S2への化合物結合部位の同定について、BINDSの多大な協力の下、質量分析を用いた解析を迅速に進めることができたため、結合部位を同定することに成功した。またもう一つの目的として掲げていたG0S2分解に関わる新規因子の同定についても候補分子を複数同定することができた。
R3年度は、G0S2の分解機構に寄与するタンパク質群の機能と化合物による影響をさらに検討する。具体的にはこれまでに分かっているBAG6などの結合タンパク質、および新たにR2年度に同定した因子XとG0S2との結合が化合物の投与によってどのように変化するかについて検討を進める。またそれと並行してG0S2のユビキチン化反応への影響についても検討していく予定である。また、R2年度で新規合成した化合物には、アルキンを導入した化合物が複数存在するため、クリック反応を利用した化合物のG0S2結合への特異性の検証も行うことができる。R2年度で新規合成した化合物を含めたヒット化合物を健常マウスに投与し薬物動態の評価検討を進める予定としている。
光クロスリンク法を用いた新規結合タンパク質の探索が、当初の想定より早く同定に成功したため、余剰金が生じた。この予算をR3年度に実施する、化合物の特異性検証のための、クリック反応による化合物の蛍光ラベリング実験試薬一式に使用する予定である。
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