研究課題/領域番号 |
20K07347
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研究機関 | 天理医療大学 |
研究代表者 |
増谷 弘 天理医療大学, 医療学部, 教授 (50252523)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Txnip / リボヌクレオプロテイン複合体 / 乳癌 / 層別診断法 / RNA |
研究実績の概要 |
乳癌において、①luminal A②Luminal B③HER2陽性④triple negativeタイプに大別され、治療法が異なっている。治療に比較的抵抗性であるtriple negativeタイプを積極的に診断する指標はなく、的確な治療法選択のためには、適切な層別指標の開発が望まれている。乳癌の生検、病理組織において癌抑制因子thioredoxin interacting protein (Txnip)の発現を検討し、その違いにより治療法選択に応用できるかどうかについて検討を行う。天理よろづ相談所病院病理部および乳腺外科との共同研究により、乳癌手術標本や生検標本についてTxnip発現の検討を行った。現在までのところ、臨床検体を用いてTxnipの発現を臨床レベルで評価できる一定の結果を得られていないが、一部のtriple negativeタイプ乳癌では、他のタイプと異なり、Txnipが細胞膜周辺に局在する知見を得た。そこで、triple negativeタイプ乳癌の発癌機構を明らかにし、特異的な診断法を開発するため、triple negativeタイプ乳癌細胞株MDA-MB231細胞における細胞膜分画でTxnipと相互作用する分子のaffinity精製、プロテオミクス解析を行い、いくつかの候補を得た。 一方、申請者は、Txnipがluminalタイプ乳癌細胞株MCF7では高分子リボヌクレオプロテイン複合体を構成し、RNAの発現パターンを変化させることを明らかにしている。今年度は、Txnipを含む高分子リボヌクレオプロテイン複合体中のRNAを同定するために、100kDa以上の高分子核抽出物画分を分画し、FlagおよびHA抗体による免疫沈降物中のRNAを抽出し、RNA-Seq解析を行い、Txnipを含む核内高分子リボヌクレオプロテイン複合体中のRNAの候補を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Txnipに対する市販抗体を用いた方法ではTxnipの発現を臨床レベルで評価できる結果を得られなかったが、乳癌triple negativeタイプで、細胞膜分画でのTxnipの局在を明らかにした。この局在のパターンは、luminalタイプ乳癌細胞株MCF7細胞でのTxnipの核での発現と対照的であり、この細胞内局在様式の差は乳癌のタイプ別の異なる発癌機構に由来する可能性がある。乳癌triple negativeタイプにおいてTxnipと細胞膜分画で相互作用する分子の候補を得ているので、その分子を用いた知見をfeed backした臨床診断法を作成できると考えられる。 一方、Txnipはluminalタイプ乳癌細胞株MCF7細胞で高分子リボヌクレオプロテイン複合体を形成している知見を得た。この高分子リボヌクレオプロテイン複合体によるmRNAやlong non coding RNAの発現パターンの調節により、細胞増殖制御や代謝制御の調節が行われている可能性がある。RNA-SeqによりTxnipを含む高分子リボヌクレオプロテイン複合体中のRNAの候補を同定した。今年度はこのような新たな知見が得られており、研究は概ね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
triple negativeタイプ乳癌細胞株MDA-MB231細胞でaffinity精製、プロテオミクス解析により得られたTxnipと相互作用する細胞膜分画付近に局在する分子の候補についての解析を行う。この同定した分子を解析することにより、Txnipによるtriple negativeタイプ乳癌の発癌制御機構の解析を行う。同時に、乳癌triple negativeタイプについて、天理よろづ相談所病院病理部および乳腺外科との共同研究により、乳癌手術標本や生検標本について同定した分子の発現の検討を行い、悪性度などの指標について解析する。 また、luminalタイプ乳癌細胞において、Txnip が形成する高次リボヌクレオタンパク質複合体に含まれるmRNAおよびlong noncoding RNAの候補について解析を行い、TxnipによるRNA発現パターン変化の制御分子機構の解析を行う。 さらに、人工改変ascorbate peroxidase 2 (APEX2)システムによる細胞内局所での精製法やRNA-Seqの新しい手法を導入して、Txnipと相互作用する蛋白質やRNAのダイナミズムの解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予算について、試薬を予定よりも安く購入できたために、少額の残額が生じた。次年度に、これまでの計画を修正して、この残額をRNAの解析に活用する。
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