研究課題/領域番号 |
20K07349
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
Qin XianYang 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (60756815)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝炎 / 脂肪肝 / トランスグルタミナーゼ / エンドトキシン / 微小環境 / マルチオミクス解析 / ホスファチジルエタノールアミン / LIMK1 |
研究実績の概要 |
本研究では、脂肪肝の微小環境において細菌性エンドトキシン(LPS)誘発性炎症反応並びに非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症において分子間接着因子トランスグルタミナーゼ(TG2)の役割の解明を目的とする。本年度では、1) 糖尿病を背景に高脂肪食投与により脂肪肝からNASHを発症するSTAMマウスを構築し、ビオチン化ペンチルアミンを用いたin situ可視化技術により、肝組織中TG2活性化の増加を見出した。2)低濃度LPS刺激高脂肪食マウスとSTAMマウスの肝組織を回収し、リピドーム・プロテオーム・トランスクリプトームのマルチオミクス解析により脂質・膜タンパク質・遺伝子発現を網羅的に定量した。肝ホスファチジルエタノールアミン(PE)の総量はchow飼育マウスでは低濃度LPSに反応しないのに対し、低濃度LPS刺激高脂肪食マウス並びにSTAMマウスでは共通に増加した。肝PE関連遺伝子と細胞膜に蓄積する肝PE関連タンパク質を抽出し、IPAパスウェイ解析により“Epithelial Adherens Junction Signaling”シグナル経路はPE関連シグナル経路として同定し、PE-CFL1-LIMK1との脂質・膜局在タンパク質・遺伝子間のシグナル伝達ネットワークの存在を見出した。3)TG2阻害剤シスタミンの早期投与により高濃度LPS誘発性炎症反応への保護効果が見られたが、後期投与ではその効果が見られなかった。異なる時点に回収した肝・腎・肺組織を用いてプロテオーム解析を行い、早期投与により肝組織での過剰免疫反応、特にIFN-γシグナルの活性化が強く抑制された。 以上の結果から、脂肪肝を背景にLPS過剰反応において肝PE関連膜シグナルを同定した。TG2阻害剤によるLPS誘発性炎症反応への保護効果はステージ・臓器依存であり、NASHの新規治療法の開発に繋がることが期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪肝を背景にLPS過剰反応において、肝PE関連膜シグナルリモデリングのトランスオミックスネットワークを構築した。LIMK1(LIMドメインキナーゼ1)はタンパク質間相互作用を媒介するだけでなくDNA/RNAとも結合するセリン-スレオニンキナーゼであり、アクチン細胞骨格の再構築制御や腫瘍細胞の浸潤や転移に関与することが報告された。今後はLIMK1などのPE関連因子の発現制御メカニズム及び機能解析により、NASHの発症機序の解明並びに新規治療法の開発に繋がると期待される。さらに、高濃度LPS誘発性炎症反応マウスモデルを用いてTG2阻害剤シスタミンによる保護効果が確認された。今後はTG2阻害剤による脂肪肝を背景にLPS過剰反応並びにNASH発症への抑制効果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
1) TG2活性阻害剤並びにTG2活性化を制御する酸化ストレスの阻害剤を用いて、脂肪肝においてLPS誘発性炎症反応やNASH発症への抑制効果を調査する。2)RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析とnLC-MS/MSを用いたプロテオーム解析によるその標的シグナル経路を同定する。3) 多重免疫染色解析によりLPS誘発性炎症反応においてTG2活性化の責任細胞を同定し、機能解析及び分子メカニズム解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:2021年度もコロナの影響で予定していた学会参加、対面での研究打合せが叶わず出張旅費の支出がなかった。また本研究課題に関わる一部の解析は所内の共通設備を使用して研究を進めた。さらに最終年度に薬効評価のため動物実験に関わる経費を確保するため、次年度使用額が生じた。
使用計画: 実験動物を用いたTG2活性阻害剤並びに酸化ストレス害剤の薬効評価並びにオミクス解析を用いた分子メカニズム解析の受託解析に使用する。
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