研究実績の概要 |
アンドロゲン受容体(AR)は脳、筋肉、脂肪、骨、生殖器など全身の臓器で発現が認められ、遺伝的な異常は先天性の生殖器や脳の発生の異常などの疾患の原因につながる。アンドロゲンの加齢による血中濃度の減少は男性更年期を始め、認知機能の低下、筋力、骨量の低下によるフレイルの発症につながることが報告されている。本研究では様々な組織、細胞株を用いてARの新規下流シグナルおよび結合転写因子あるいは核内でのヒストン修飾などのエピゲノム因子との相互作用、細胞内エピゲノム状態を網羅的に検証することでスーパーエンハンサーの制御機構を探索し組織特異的な未知のARの転写調節機構を見いだすことを目的とした。まずゲノムワイドでのAR結合部位を骨芽細胞、神経、筋肉のモデル細胞であるU2OS, SH-SY5Y, RD, TMLEの4種類で行った。DHT 10 nM刺激後細胞を回収し、ChIPを行った。シークエンスにより有意なAR結合部位(P < 1E-4)を同定した。ピークに一致してARの結合モチーフが最も濃縮していることが確認できた。興味深いことに前立腺がん細胞では強く同定されるFOXモチーフは確認されず、骨芽細胞では骨量維持に重要な転写因子が筋肉の細胞では筋肉の分化や再生に重要な転写因子の結合モチーフが強く濃縮された。神経細胞においては神経の分化に重要と報告のあった転写因子モチーフの濃縮が強く確認された。またこれらの新規AR結合因子は細胞の分化、増殖などに関わりアンドロゲン依存的な組織特異的な働きを媒介している可能性を示唆する結果が得られた。またヒストン修飾のChIP-seqの結果よりスーパーエンハンサー領域を同定し細胞特異的な重要な遺伝子群にAR依存的な機能がかかわることが示された。
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