本研究は、多発性骨髄腫の治療において既存薬レブラミドと併用する組合せ化合物の開発を目的とし遂行した。多発性骨髄腫では転写因子IKAROSやIRF4が腫瘍細胞増殖に関与しているため、これらの転写因子機能阻害が治療標的になり得る。レブラミドはIKAROSタンパク質の分解促進により抗腫瘍効果を発揮する抗がん剤だが、IKAROSは骨髄腫細胞の生存だけでなく正常リンパ球初期分化にも重要であるため、腫瘍治療に有効な濃度を生体に投与することでT細胞やNK細胞をなどのB細胞以外のリンパ球数も減少して感染症などの副作用が問題になる。この問題を改善するため、本研究では我々が新たに見いだしたB細胞特異的に存在する“PC4によるIKAROS安定化機構”に着目した。 研究開始当初、PC4がIKAROSタンパク質に結合し安定化すると想定し、両者の結合に必要なアミノ酸領域を決定するため免疫沈降-ウェスタンブロット解析を行った。しかしPC4とIKAROS間の結合が確認できなかったことから、PC4によるIKAROSタンパク質安定化は両者の相互作用に依存しないと考えられた。そこで、PC4発現を低下させてIKAROSを不安定化させるためPC4遺伝子の発現制御を調べたところ、IRF4がPC4遺伝子を活性化することを見出した。さらに、PC4遺伝子活性化にはIRF4蓄積が重要で、IRF4はアミノ酸修飾によって蓄積が誘導される可能性が示唆された。当初の視点とは異なるが、レブラミドと作用機序が異なるIKAROS不安定化の標的を見出だすことができた。今後は同制御機構を活用した薬剤を開発し、多発性骨髄腫細胞を用いてレブラミドとの開発薬剤の併用の有用性を検討する。
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