研究課題/領域番号 |
20K07354
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
定 清直 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (10273765)
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研究分担者 |
千原 一泰 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (00314948)
竹内 健司 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (40236419)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 感染宿主因子 / チロシンキナーゼ / ゲノム編集 / HCV / 3BP2 |
研究実績の概要 |
我々は以前、Ablタンパク質チロシンキナーゼをshRNAや薬理学的阻害によりノックダウンすると、J6/JFH1株由来のC型肝炎ウイルス(HCV)のHuh-7.5細胞における粒子集合が抑制されることを報告した。今年度は、ゲノム編集によりAbl欠損細胞を樹立し、野生型またはキナーゼ活性喪失型Ablを発現するAbl欠損細胞と親細胞Huh-7.5との間でHCV産生量を比較した。その結果、ウイルスの付着・侵入の段階からウイルス遺伝子の発現までAblの発現は必要ないこと、しかしHCV粒子の組み立てにはAblのキナーゼ活性が必要であることが明らかとなった。ヒト胚性腎臓293T細胞を用いた再構成実験により、Ablの活性化ループのTyr412のリン酸化は、ウイルス非構造タンパク質5A(NS5A)との共発現により促進され、NS5AのTyr330をPhe(Y330F)に置換すると阻害されたことから、NS5AがAblの基質活性化因子として機能していることが示唆された。また、AblとNS5Aの結合は、NS5AのY330F変異やキナーゼを失ったAblによって弱められ、AblのTyr412リン酸化は、NS5Aのホモダイマー化を阻害する変異では促進されなかったが、AblとNS5Aの結合は依然として観察された。これらの結果から、Ablはリン酸化に依存してウイルス粒子の形成に必要な2量体のNS5Aと複合体を形成するが、Ablはチロシンリン酸化に関わらず単量体のNS5Aとの複合体形成が可能であることが明らかとなった。この知見は、Abl阻害薬を用いた新しいC型肝炎治療戦略の分子基盤を提供するものである。さらにアダプタータンパク質3BP2がデクチン-1を介した細胞内シグナルを制御し、サイトカインの発現とNF-κBの活性化を誘導していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定をほぼ達成し、ゲノム編集により作成した培養肝細胞と、遺伝子改変マウス(当研究室で作出した3BP2欠損マウス、変異型3BP2のノックインマウス)を駆使した2つの論文として報告した。一方、当初計画していたウイルス粒子産生を制御するオルガネラやユビキチンリガーゼとの相互作用の解析や、Abl制御性ISGの同定には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い、ウイルス粒子産生を制御するオルガネラやユビキチンリガーゼとの相互作用、Abl制御性ISGの同定に進む予定である。またAbl結合タンパク質である3BP2の遺伝子改変マウスの解析から得られた新たな知見、に基づき、C型レクチンを介する新規炎症シグナル経路とマスト細胞・好酸球からのサイトカイン産生の解析へと展開させる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による影響により、一部の実験に遅延が見られている。さらに年度末に論文が2報受理されたため、論文出版費も含めて次年度使用額とした。 2021年度は情報発信の点では十分とは言えないが、2022年度は積極的に学会発表を通じて成果を発信していきたいと考えている。
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