研究課題/領域番号 |
20K07356
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
山川 大史 三重大学, 医学系研究科, 助教 (20631097)
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研究分担者 |
稲垣 昌樹 三重大学, 医学系研究科, 教授 (30183007)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 筋 / 骨格筋 / 心筋 / 中間径フィラメント / デスミン / 筋再生 |
研究実績の概要 |
中間径フィラメントのリン酸化はフィラメントの脱重合に必須の現象である。特に細胞分裂の際は、中間径フィラメントの重合・脱重合が精密に制御されることで、細胞分裂が適切に行われる。そのため、間葉系細胞特異的中間径フィラメントであるビメンチンのリン酸化不全マウスは、細胞分裂障害による老化現象が早期に現れる。筋細胞によって形成されている筋繊維は、デスミンと呼ばれる筋細胞特異的中間径フィラメントが存在するが、そのリン酸化による脱重合の意義はほとんど分かっていない。研究代表者はデスミンのリン酸化不全マウスを独自に作製し、その表現型解析を進めてきた。 デスミンのリン酸化不全マウスは骨格筋障害誘導後、筋再生過程において、デスミンのタンパク質凝集が確認される。本年度は、細胞レベルの実験系を立ち上げ、マウス下肢骨格筋由来の筋芽細胞の培養系を立ち上げた。デスミンのリン酸化不全マウスの筋芽細胞は筋繊維に分化誘導させることで、デスミンのタンパク質凝集が生じることを明らかにできた。一方で、なぜこのような凝集が生じるか詳細な解析が必要である。 また、デスミン欠損マウスの過去の研究では、デスミンはミトコンドリアの量、機能に影響を及ぼすことが報告されている。これに関して、デスミンのリン酸化不全マウスにおけるミトコンドリアの量あるいは局在変化の有無について組織学的な解析を実施した。しかし、デスミンリン酸化不全によるミトコンドリアの量や局在への影響は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織学的なデスミン蛋白の凝集の詳細を解析を可能とするため、細胞レベルでの実験系を立ち上げることができた。さらに細胞レベルにおいても、デスミンの凝集が確認できたため、今後のデスミン凝集の形成メカニズムに関しての研究の進展に期待できる。一方で、デスミン欠損マウスを用いた過去の研究業績を参考にミトコンドリアの量的・局在的な変化を期待していたが、デスミンリン酸化不全マウスではそれらは全く変化が見られないという予想外の結果が得られた。しかし、機能面での変化が存在する可能性があるため、今後の研究にてミトコンドリア機能に関する詳細(エネルギー代謝系の遺伝子発現変化など)を明らかにする必要がある。 上記に加え、並行して、筋幹細胞レベルで発現がみられるビメンチンのリン酸化不全による筋繊維への影響も評価するために、すでに作製済みのビメンチンリン酸化不全マウスの筋の解析、さらにデスミンとビメンチンの両リン酸化不全マウスの筋の解析も進めることができているため、全体として進捗状況は順調に進んでいると評価している。筋細胞の分化過程でビメンチンからデスミンへと変化する過程を明らかにするとともに、より詳細なデスミン蛋白の凝集メカニズムの解明に役立つツールとして期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
デスミンのリン酸化不全マウスの解析を通して、デスミンのタンパク質凝集が生じることが生体レベルでも、細胞レベルでも共通して確認することができている。そこで、本年度は、デスミン蛋白の凝集の形成メカニズムを明らかにすること、またその凝集が筋再生の遅延にどのように関与しているかを明らかにする。研究方法は、以下に示す。 ①マウス下肢骨格筋から回収した筋芽細胞の培養系にて、筋繊維へと分化培養を経時的にサンプリングし、分化のどの段階でデスミンのタンパク質凝集が出現するかを明らかにする。この時、筋幹細胞マーカーそして、分化マーカーも経時的に評価することで、細胞の分化段階を明確にする。また、筋幹細胞レベルで発現する中間径フィラメントのビメンチンがデスミンに置き換わるタイミングを明らかにし、両者のリン酸化不全による影響も合わせて評価することで、筋繊維の中間径フィラメントのリン酸化のより詳細な機能解明につなげる。 ②ミトコンドリア機能の評価(カルシウムイオン濃度調節、ATP産生、アポトーシス、活性酸素濃度など)を実施する。 ③筋繊維の機能的変化(糖代謝、脂質代謝など)を明らかにする。
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