各組織を構成する細胞はそれぞれの種類ごとに固有の寿命をもつことが知られるが、細胞の寿命を決定するメカニズムについてはこれまでほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、細胞の生涯を比較的観察しやすい腸上皮細胞をモデルとして、細胞寿命の制御メカニズムに注目した解析を進めてきた。 その結果、各種遺伝子改変マウスを用いた解析から腸上皮細胞の寿命制御におけるmTORC1シグナルやRas-MAPKシグナルの重要性を前年度までに見出してきた。一方で、赤血球の寿命制御においては膜型分子であるCD47の重要性を研究代表者らの研究グループでは見出していたので、CD47が腸上皮細胞の寿命も制御するか否かについて調べることを目的として、本年度は前年度から継続して腸上皮細胞特異的CD47ノックアウトマウス(CD47lox/flox・villin-Creマウス)における腸上皮細胞の寿命について解析を行なった。 その結果、CD47欠損はマウスの小腸上皮細胞の寿命には影響を与えないが、大腸の上皮細胞の寿命を短命化させていることを確認した。また、大腸上皮細胞の増殖速度及び入れ替わりがCD47欠損により促進されていることも確認した。しかし、大腸クリプトに存在し、大腸上皮細胞の大元にあたる腸幹細胞の数はCD47欠損による影響を受けていないことを確認した。 一方で、腸上皮細胞上のCD47欠損が腸での発癌に与える影響を調べるために大腸がんモデルマウスであるApc Min/+マウスと腸上皮細胞特異的CD47ノックアウトマウスを交配したマウス(Apc Min/+・CD47lox/flox・villin-Creマウス)についても解析を進めた。その結果、プレリミナリーなデータではあるがApc Min/+マウスのポリープ形成や寿命に対して腸上皮細胞上のCD47欠損が与える影響は少ないという実験結果を得た。
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