転写因子p63の機能異常が外胚葉異形成症候群の病態形成に関わることを見つけた申請者らは、p63分子のリン酸化制御に必要となるC末端(Cα)領域の分子的役割解明に取り組んできた。このCα領域にはタンパク質結合モチーフが含まれるため、我々はプロテオーム解析でCαに結合するキナーゼ活性をもつタンパク質を探索し、その中で上皮組織に発現が認められる分子3候補に絞り込んだ。この3分子に対し、p63陽性ヒト上皮細胞における発現を免疫組織染色で調べたところ、候補のうち2分子についてシグナルを認めた。目的とする分子にはp63に対するリン酸化能が求められるため、我々はin vitroでリン酸化能を調べる実験系を起ち上げ評価を行った結果、候補1分子について、p63に対するリン酸化活性を認めた。我々は、その候補分子が細胞動態へ機能的にどのような影響をもつのか検証するために、レトロウイルス遺伝子導入により、細胞内において候補分子の発現低下を誘導する遺伝子ノックダウンの実験系を確立した。この技術を使用し、p63陽性の未分化ヒト上皮細胞において候補分子をノックダウンした結果、ノックダウンした細胞群ではコロニー形成能が低下することが明らかとなった。さらにこの候補分子に対する阻害剤を入手し培養下で細胞に処理したところ、上皮細胞の増殖が著しく低下する結果を認め、本候補分子が細胞の増殖制御に寄与する可能性を見出した。そしてこの阻害実験において、p63タンパク質の分子動態を調べたところ、阻害剤の濃度依存的にp63タンパク質量が低下することを明らかにした。以上、本研究で得られた成果より、我々が同定したリン酸化酵素は、p63の安定的な発現維持に寄与することにより、未分化上皮細胞の増殖/cell cycle制御に機能的役割をもつことが示唆された。
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