研究課題/領域番号 |
20K07368
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
飯岡 英和 新潟大学, 医歯学系, 助教 (20425416)
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研究分担者 |
近藤 英作 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30252951)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Crumbs3 / 細胞極性 / 転移 / 浸潤 / 細胞移動 / 大腸癌 |
研究実績の概要 |
独自のモノクローナル抗体を用いた解析から、上皮組織の形態・機能の形成に必須の遺伝子である一回膜貫通型タンパク質Crumbs3(Crb3)が、ヒトの大腸腺癌の転移を促進する可能性を見出したが、詳細なメカニズムについては不明であった。本研究の実施に先立ってin vitroの実験から非受容体型タンパク質チロシン脱リン酸化酵素の一つPTPN3がFERMドメインを介してCrb3と相互作用することを見出しており、Crb3との関連を含めて大腸腺癌における機能を解析することを目的としている。前年度までに、PTPN3ノックアウト大腸腺癌細胞(PTPN3-KO)を樹立して野生株と比較し、増殖性に違いが無いが、細胞の移動性が低下することを明らかにした。PTPN3の欠損によるこれらの影響はCrb3ノックアウト細胞(Crb3-KO)に見られる変化とよく一致する。今年度はCrb3とPTPN3との関連性と、PTPN3の作用点に注目した解析を進めた。ノックアウト細胞を用い、Crb3とPTPN3の細胞内局在を比較したところ、野生型大腸癌細胞株と比較し、PTPN3-KO細胞ではCrb3の細胞内局在に違いは見られないが、Crb3-KO細胞ではPTPN3が細胞質に拡散していることが判明した。このことはCrb3がPTPN3の細胞内局在を制御することを示唆する。また野生型細胞においてCrb3は細胞膜の一部とリサイクリングエンドソームに局在することが明らかとなっているが、Crb3-KO細胞およびPTPN3-KO細胞ではリサイクリングエンドソームマーカータンパク質であるRab25が不安定化する結果を得た。以上の結果からCrb3とPTPN3が膜輸送系の制御を介して転移の促進に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はCrb3とPTPN3との関連性と、PTPN3の作用点に注目した解析を進めた。序盤にPTPN3の市販の抗体を用いたウェスタンブロットによりPTPN3の腺癌細胞における発現量や組織切片における発現を明らかにすることが出来た一方で、同じ抗体を用いて通常の免疫細胞染色を行った際に内在性PTPN3が検出できなかった。そこで、①検出手法の改良、②すでに情報の得られているCrb3の細胞内局在から想定されるメカニズムの追及の2点に焦点を絞って、解析を進めた。①については別の市販抗体を用いても同様の結果であったが、免疫組織染色では検出できることから、大腸癌細胞を用いてスフェロイド培養を行い、細胞塊から免疫組織染色と同様の手順で切片を作成し染色を行ったところ、Crb3-KO細胞におけるPTPN3の染色パターンに違いが見られた。②についてはCrb3がリサイクリングエンドソームに局在することから、細胞内膜輸送系に関与すると考え、Crb3およびPTPN3のノックアウト細胞においてRab25が不安定化することの発見に繋げた。当初免疫細胞染色の条件検討等のため研究が遅れ気味であったが、結果として目標としていた程度の発見は達成できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
PTPN3の脱リン酸化酵素としての役割とCrb3および、Rab25との関連について詳細な解析を予定している。解析の一つの方向性として、PTPN3によって脱リン酸化を受ける基質については、いくつかのタンパク質について報告があるため、ノックアウト細胞における基質タンパク質のリン酸化度を比較する実験を検討中である。また、PTPN3の脱リン酸化活性とCrb3の関連性にも注目しており、合成基質とPTPN3および、Crb3の組換えタンパク質を用いCrb3の有無によりPTPN3の脱リン酸化活性に与える影響を評価することも予定している。Rab25自体や、活性化に関わるGTPase活性化因子(GAP)グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)がリン酸化により機能が制御される可能性もあるため、関連が考えられる分子について先入観無く慎重かつ迅速に解析を進め、論文にまとめる予定である。
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