研究実績の概要 |
近年、全身諸臓器のがん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬治療の普及にともない、従来からの薬物性肝障害とはまったく異なる病態で、免疫関連有害事象(irAE)と称される肝障害が増えつつある。しかし、その病態および病理像は未だ不明であり、診断基準も策定されておらず、実臨床の場では混乱を招いている。現在まで、厚労省の難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班で行われるirAE関連肝障害の全国調査と同時に、患者症例の肝生検検体も順調に収集できており、HE染色との形態的観察に加え、免疫担当細胞の免疫組織学的検討によりirAE関連肝障害の組織学的特徴および免疫関連現象の解明も順調に解析が進んでいる。同時に臨床的鑑別疾患として重要な自己免疫性肝炎、薬物性肝障害の症例も同時に収集および解析が進んでおり、病理診断の際における重要な形態的および免疫染色の所見について明らかにしつつある。さらに前向きにも検体を収集し、包括的1細胞遺伝子解析法を用いた肝内細胞社会の解析を行い、irAE関連肝障害において発生している複雑な免疫応答および病態を明らかにすることを試みているが、現在の所、適切なサンプルが入手出来ず、本解析は未施行である。来年度も、病理学的解析にて得られるirAEの病理学的知見と臨床情報(免疫チェックポイント阻害薬の種類, がん臓器と組織像, 肝機能データ, 画像所見)を加味し、irAE関連肝疾患の病態を臨床病理学的に整理し、最終的には治療介入の是非に寄与できる臨床病理学的診断基準の策定を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
irAE関連肝障害の肝生検検体を前方視的および後視的に症例収集しつつある。現在まで、金沢大学附属病院を主とした北陸の病院から21例、また厚労省の難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班による全国調査と同時に協力いただいた32例を収集している。また、対照疾患として自己免疫性肝炎(AIH), 原発性胆汁性胆管炎(PBC), 薬物性肝障害を自施設を中心に計50例以上を収集しえた。組織学的観察によりirAE関連肝障害の組織学的病型として急性肝炎型(汎小葉性、中心静脈周囲性、回復期)、胆管炎型、単純性脂肪肝型、胆汁鬱滞型、肉芽腫性肝炎型、慢性肝炎型、非特異的反応性変化型に分類でき、CD8/CD4比が門脈域に較べて小葉内で特に高値であることを明らかにした。また、PBCのバイオマーカー候補分子XがirAE関連肝障害の特に障害胆管部で発現していることを明らかにした。解析サンプルの調達が出来ず、シングルセル解析が未だ施行できていないが、概ね順調に進展していると考える。
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