研究課題
臨床検体および培養細胞系で明らかにしてきたヒト食道扁平上皮癌の増殖・進展に係る腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophage, TAM)の役割を生体内で検証することを目的として、本年度は免疫不全マウスにヒト造血幹細胞を移植することによりヒトに近い造血・免疫環境を構築可能な「ヒト化マウス」皮下にヒトがん細胞を移植し、生着および腫瘍組織内へのヒト型骨髄由来細胞浸潤が起こるか否かの実験を繰り返し、以後の研究計画遂行の基礎を築いた。NOG IL-3/GM-Tgマウス新生仔肝にX線照射後ヒト造血幹細胞を移植し、7~9週間後末梢血ヒト型CD45陽性細胞5%以上の動物を「ヒト化マウス」とし、ヒトバーキットリンパ腫細胞Rajiを皮下移植した。陰性対照には同週齢未処理NOG IL-3/GM-Tgマウスを「非ヒト化マウス」として用いた。移植後20日目までの「ヒト化マウス」腫瘍径は、対照の「非ヒト化マウス」移植腫瘍に比較して有意に増大した。20日後腫瘍組織切片についてヒト単球・マクロファージ表面マーカーCD68およびCD163特異的抗体による免疫組織化学を実施したところ、「非ヒト化マウス」移植腫瘍にはヒトCD68あるいはCD163免疫活性陽性マクロファージは確認されなかったが、「ヒト化マウス」移植腫瘍内には多数のヒトCD68あるいはCD163免疫活性陽性マクロファージが確認され、これらTAMが骨髄・末梢血単球由来であることが証明された。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言発出の影響で、本年度前半の動物実験開始が大幅に遅れたため、当初予定していた「ヒト化マウス」へのヒト食道扁平上皮癌細胞移植ならびに移植腫瘍からのCD163陽性マクロファージの単離、それらが特異的に発現する分子の解析までに至っていないが、「ヒト化マウス」へのヒトがん細胞移植系は確立できており、次年度以降の研究継続の確証が得られているため。
(1)「ヒト化マウス」へのヒト食道扁平上皮癌細胞移植腫瘍組織からCD163陽性TAM分画と動物末梢白血球よりCD14陽性単球分画を磁気ビーズ法により分取し、両者の間でcDNAマイクロアレイ解析、プロテオーム解析およびリン酸化抗体アレイ解析を行いTAMで発現変化する遺伝子、タンパクおよびシグナル分子を網羅的に抽出する。(2)移植腫瘍組織からEpCAM陽性ヒト食道扁平上皮癌細胞分画を分取し、同一癌細胞培養株と間でcDNAマイクロアレイ解析、プロテオーム解析およびリン酸化抗体アレイ解析を行い移植癌細胞で発現変化する遺伝子、タンパクおよびシグナル分子を網羅的に抽出する。以上の検索結果を総合して、TAMあるいは移植腫瘍内癌細胞で量的・質的に特異的変化を示す候補分子を選択する。(3)(2)で抽出された移植ヒト食道扁平上皮癌腫瘍内TAMあるいは癌細胞で特異的変化を示す分子について、移植組織、培養細胞における発現を、定量的RT-PCR、ウエスタンブロットにより確認する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (28件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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https://www.med.kobe-u.ac.jp/patho/index.html