研究実績の概要 |
臨床検体および培養細胞系で明らかにしてきたヒト食道扁平上皮癌の増殖・進展に係る腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophage, TAM)の役割を生体内で検証することを目的として、本年度は免疫不全マウスにヒト造血幹細胞を移植することによりヒトに近い造血・免疫環境を構築可能な「ヒト化マウス」皮下にヒト食道扁平上皮癌TE-11細胞を移植し、生着および腫瘍組織内へのヒト型骨髄由来細胞浸潤が起こるか否かの実験を実施した。hM-CSF, hIL-3, hSIRPα, hGM-CSF, hTPO遺伝子導入Rag2-/- Il2rg-/-マウス(MISTRGマウス)新生仔肝にX線照射後ヒト造血幹細胞を移植し、7~9週間後ヒト食道扁平上皮癌細胞TE-11を皮下移植した。陰性対照には同週齢未処理Rag2-/- Il2rg-/-マウスを用いた。移植後50日目までのヒト化マウス腫瘍容量は、対照に比較して有意(p < 0.0001)に増大した。腫瘍組織切片について免疫組織化学的解析を実施したところ、対照マウス移植腫瘍にはヒトCD163免疫活性陽性マクロファージは確認されなかったが、ヒト化マウス移植腫瘍内には多数のヒトCD163免疫活性陽性マクロファージが確認され、これらTAMが骨髄・末梢血単球由来であることが証明された。さらにヒト化マウスでは移植腫瘍内微小血管密度が高い傾向を認めた。COVID-19蔓延による動物、試薬供給停滞のため、ヒト化マウスへのヒト食道扁平上皮癌細胞移植実験が本年度までずれ込んだが、ヒト化マウスへの移植により食道扁平上皮癌細胞の増殖促進、腫瘍組織内微小血管密度の増大、さらに特異的ヒト型TAMの浸潤を確認し、研究計画開始時の作業仮説を立証できた。現在移植腫瘍内間質細胞および癌細胞個々における分子、遺伝子の網羅的発現解析を検討中である。
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