研究実績の概要 |
Epstein-Barrウイルス(EBV)はほとんどの成人に潜伏感染しているヒトヘルペスウイルスである。主としてB cellに潜伏感染し、その再活性化により宿主B cellの形質細胞への分化と抗体の分泌が誘導される。我々は、胚中心・骨髄を介する抗体産生とは別の抗体産生経路である、EBV再活性化に誘導される抗体産生経路を提唱している。 TSHレセプター抗体 (TRAb) はバセドウ病の原因となる自己抗体である。通常の甲状腺刺激作用のあるTRAbはIgG型だが、我々はEBV再活性化に誘導される抗体産生系によってもIgM型のTRAbの産生がおこることを証明した。IgM型のTRAbは甲状腺ホルモン産生シグナルの伝達を行わず、TSH結合阻害も行わないが、補体を介して甲状腺濾胞上皮細胞破壊を行った。したがってTRAb-IgMは甲状腺抗原を流出させ、病原性のTRAb-IgGの産生を誘導することが示唆された。我々はTRAbのIgM, IgGを患者血清で測定し、その比(MG ratio)がバセドウ病の経過予測に役立つと考えてさらに検討している。この結果について、第95回日本内分泌学会学術総会、第65回日本甲状腺学会学術総会にてシンポジウムを行ったほか、第51回日本免疫学会学術集会、第96回日本薬理学会年会にて発表し、さらに論文発表した(Nagata K, Hayashi K, Kumata K, Satoh Y, Osaki M, Nakayama Y, Kuwamoto S, Ichihara Y, Okura T, Matsuzawa K, Miake J, Fukata S, Imamura T. Epstein-Barr virus reactivation in peripheral B lymphocytes induces IgM-type thyrotropin receptor autoantibody production in patients with Graves’ disease. Endocrine Journal.70(6), 2023 advance publication)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「EBV再活性化に誘導される抗体産生系」は、従来の「胚中心・骨髄を介する抗体産生系」とは別の抗体産生系である。今年度は、EBV再活性化に誘導される抗体産生系によって産生される抗体のひとつである、IgM型のTRAbが甲状腺ホルモン産生シグナルの伝達を行わず、TSH結合阻害も行わないが、補体を介して甲状腺濾胞上皮細胞破壊を行うことを示し、論文発表した(Nagata K, Hayashi K, Kumata K, Satoh Y, Osaki M, Nakayama Y, Kuwamoto S, Ichihara Y, Okura T, Matsuzawa K, Miake J, Fukata S, Imamura T. Epstein-Barr virus reactivation in peripheral B lymphocytes induces IgM-type thyrotropin receptor autoantibody production in patients with Graves’ disease. Endocrine Journal.70(6), 2023 advance publication)。 TRAb-IgMは甲状腺抗原を流出させ、病原性のTRAb-IgGの産生を誘導することが示唆されたため、TRAbのIgM, IgGを患者血清で測定し、その比(MG ratio)がバセドウ病の経過予測に役立つと考えて測定方法のキット化等、さらに検討している。
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