研究実績の概要 |
膵臓がんでは、高率 (80-95%)に、KRASの機能亢進性変異が認められ、その下流のMAPK経路の活性化が膵臓がんの発生に関与していると考えられる。我々のグループは、ヒトの浸潤性膵臓がんにおいてLOH(ヘテロ接合性の喪失)が高頻度に認められる染色体12q21に、Dual specificity phosphatase 6 (DUSP6)を見出した。DUSP6はERK特異的な脱リン酸化酵素で、MAPK経路の過剰活性化を防ぐ役割を担っている。DUSP6が腫瘍抑制因子としてはたらいている可能性を明らかにするために、Dusp6 nullの膵臓がん発生モデルマウスを作成した。LSL-KrasG12D;Pdx1-Creマウスは、膵臓の前駆細胞に特異的にCre recombinaseが発現し、膵臓にoncogenicな変異型KrasG12Dが発現し、6か月~1年でヒト膵臓がんの前癌病変である膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)に類似した病変 (mPanIN) が観察される。このマウスと、Dusp6ノックアウトマウスを交配させ、Pdx-1Cre;KrasLSL-G12D/+Dusp6(-/-)マウス(KC-Dusp6KO)を作成し、Pdx-1Cre;KrasLSL-G12D/+Dusp6(+/+)マウス(KC-Dusp6wild),Pdx-1Cre;KrasLSL-G12D/+Dusp6(+/-)マウス(KC-Dusp6HI)と比較した。膵臓の前がん病変は、KC-Dusp6KOでは、KC-Dusp6wild, KC-Dusp6HIと比較して、広範囲に膵管に前癌病変が進展し、一部で浸潤がんが認められた。Dusp6の消失はin vivoでKrasG12Dを起点とする膵癌の発生進展を促進することが明らかとなりDUSP6がin vivoで膵癌発生進展抑制分子として機能していることが示唆された。
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