研究課題/領域番号 |
20K07388
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
野口 雅之 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00198582)
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研究分担者 |
臺 知子 筑波大学, 附属病院, 研究員 (20835194)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | pECT2 / FAK |
研究実績の概要 |
肺腺癌の多段階悪性化機構を患者の予後に基づいて明らかにしてきたが、肺腺癌の発生初期から遺伝子増幅が見られるECT2を明らかにした。ECT2はゲノム増幅のみならず、タンパク発現も亢進しており、その発現亢進は有意に肺腺癌の予後に関与していた。ECT2は肺腺癌の細胞膜および細胞質でリン酸化され(pECT2)、このpECT2がRac-1を特異的に活性化して肺腺癌の初期悪性化に関与していると考えられる。本年度はpECT2が結合して肺腺癌の悪性化に関与するターゲットタンパクを同定し、pECT2の生物学的役割を明らかにした。 ECT2を過剰発現する肺腺癌の細胞株であるCalu-3とH2342を用いてECT2の発現を抑制するとfibronectinあるいはcollagen coat dishにおいて両者の細胞の増殖能は減少し、かつ円形化して接着能が低下する。発現抑制前後の細胞におけ全RNAのシーケンスを行って抑制前後で発現の変化している遺伝子を比較検討した。両者ともに有意に発現の変化している遺伝子は298遺伝子あった。この中にfocal adhesion signalingに関与する遺伝子として、FAK, Crk, integrin b1, paxillin, p130Casが含まれていた。この中でpECT2はFAKと直接的に結合しており、FAKの活性化を維持し、細胞外マトリックスの制御を行っていることが明らかになった。この結果をCancer Scienceに報告した(Kosibary Z, Noguchi M, et al. DOI:10.1111/cas.14743, 2021)。現在、共同研究者の広川がインシリコスクリーニング法を用いてpECT2とFAKの結合部位の同定を行っており、結合部位の候補が明らかになり次第、分子生物学的に確認するとともに、阻害剤をスクリーニングする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
pECT2が肺腺癌の悪性化の初期段階で関与していることを複数の肺腺癌細胞株を用いてin vitroで明らかにするとともに、pECT2の結合相手としてFAKを同定できた。これまでの成果は2020年度にLab Invest誌に発表できた。その後、インシリコスクリーニングでpECT2-FAKの結合部位を同定しているがこの点についてはやや進捗が遅れている。しかし2021年度前半にインシリコスクリーニングを終了する予定である。結合部位が確定できれば、市販薬ライプラリーによるスクリーニングには経験があるので2021年度中には工程表に追いつけると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
pECT2とFAKの結合部位を同定し、この結合を阻害することで肺腺癌の初期悪性化を阻止することが本研究の目的である。pECT2-FAKの結合部位が同定されれば、我々の以前行った、SFN-SKP1結合の阻害剤開発(Shiba A, Noguchi M, et al. Clin Cancer Res, 2019)と同様に研究を進行させる。ただし、タンパクータンパク結合の阻害は、リガンドー受容体結合のような鍵と鍵穴という強力な関係にないので、一般的に効果的な阻害効果を得るのが難しい傾向にあると考えられている。もちろん本研究で、有効な阻害剤を開発し、肺腺癌の初期悪性化を阻止したいと考えているが、一方で、pECT2がCT検診で発見されるような初期肺腺癌の機能的診断ツールとして使用できないかも検討する余地があると考えている。今後、細胞診断、あるいは組織診断でpECT2の発現を診断のツールとして用いる検討も行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
pECT2-FAKの結合部位のインシリコスクリーニングの進捗がやや遅れてたため、スクリーニング後に結合部位決定をするために使用する抗体やベクターの購入ができなかった。スクリーニングは本年度には終了する予定であり、差額の97,508円については令和3年度の研究において消耗品の一部として、抗体購入やベクター作製に使用予定である。
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