研究実績の概要 |
肺腺癌の多段階発生増悪機構を患者の予後に基づいて研究してきたが、その過程で肺腺癌の初期から遺伝子増幅がみられる遺伝子であるECT2を明らかにした。(Murata Y, Noguchi M et al, Cancer Science 2014) この知見をもとにECT2の増幅や異常発現が肺腺癌の予後に与える影響を明らかにし、これはECT2本来の生理学的機能である核分裂時の発現以外に細胞膜、細胞質におけるpECT2の役割をさらに明らかにした。(Kosibaty Z, Noguchi M et al. Lab Invest, 2018) また、この細胞膜で発言するリン酸化ECT2(pECT2)はFAKと直接結合することでfocal adhesion signalingに関わるであろうことを報告した。(Kosibaty Z, Noguchi M et al. Cancer Science, 2021) 本年度はこのpECTの機能がRASの活性化に関わるRasGRF2の発現とリンクして患者の予後に関わることを明らかにしPathology Internationalに報告した。(Nakagawa T, Noguchi M et al. Pathol Int, 2021) 以上のようにECT2が肺腺癌の初期悪性化に深く関わっている知見を積むことができた。またヒト肺腺癌切除例133例を用いて新鮮材料からセルブロックを作成し、pECT2とFAK局在を確認するとともにこれらの発現が肺腺癌の悪性化に関わることを明らかにした。(第81回日本癌学会に発表予定)PECT2とFAKとの結合部位の候補が同定され次第、免疫沈降法を用いて確認するとともにその阻害物質(阻害剤)をスクリーニングする。
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今後の研究の推進方策 |
pECT2とFAKの結合部位をインシリコスクリーニングで同定し、この結合を阻害することで肺腺癌の初期悪性化を阻止する化合物を同定するのが本研究の目的である。pECT-FAKの結合部位が同定できれば我々がすでに報告しているSFN-SKP1結合の阻害剤開発(Shiba A, Noguchi M et al. Clin Cancer Res, 2019)と同様に研究を進行させる。ただし、タンパク-タンパク結合の場合、リガンド-受容体結合のような鍵と鍵穴というような強力な結合関係にないので、一般的に効果的な阻害剤を得るのは難しい。もちろん本研究では肺腺癌の悪性化を阻止するような有効な阻害剤を開発したいと考えているが、研究の進捗が進まない場合にはpECT2の発現を細胞診断や組織診断の診断ツールとして用いる研究も合わせて行う予定である。
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