研究課題/領域番号 |
20K07392
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
門田 球一 香川大学, 医学部附属病院, 講師 (70448356)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肺癌 / 進展 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
Tumor spread through air spaces (STAS) は肺癌細胞の肺胞腔内への高悪性度な進展形式として申請者らが提唱した(Kadota et al. J Thorac Oncol 2015)。STASを伴う肺癌は再発率が高く、予後因子としての重要性は多くの施設で確証され(Kadota et al. Am J Surg Pathol 2017, Am J Surg Pathol 2019)、WHO分類に記載された。しかし、STAS発生の生物学的メカニズムに関しては解明されていない。 近年、進行期非小細胞肺癌ではがん免疫療法が発展し、特に抗PD-1抗体薬の有効性が示されている。PD-1とCD8陽性のTリンパ球浸潤は、抗PD-1抗体薬の効果を高めることが示されており(Thommen et al. Nat Med 2018)、バイオマーカーとして期待される。申請者らは、腫瘍の進展が腫瘍免疫により制御されていることを明らかにしてきた。FoxP3陽性制御性Tリンパ球の増加や腫瘍のIL-7R発現が、腫瘍促進性の免疫微小環境を形成し(Kadota et al. Oncoimmunology 2013, Chest 2015, Suzuki, Kadota et al. J Clin Oncol 2013)、CD163陽性腫瘍関連マクロファージ/CD8陽性Tリンパ球比の増加が腫瘍の悪性度を高めることを解明した(Ujiie, Kadota el al. Oncoimmunology. 2015)。 本研究課題では“STASの発生を促進する因子は何か”、“STAS発生の抑制には何か必要か”が学術的問いである。本研究ではSTASの発生機構の解明のため、腫瘍免疫微小環境に着目し、さらにSTASの存在が抗PD-1抗体薬の治療効果に与える影響を検討することを考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺癌切除症例の臨床・病理データファイルの確立: 香川大学医学部附属病院で1999年~2015年の間に切除された約1200例の非小細胞肺癌症例を集め、患者転帰(生存、癌再発の有無、再発部位)を確認し、データの更新を行った。TNM病期は最新版のAJCC Cancer Staging Manual (8th ed. 2016)に基づき再分類をした。 病理組織学的評価:癌組織のパラフィンブロックや病理標本を収集し、STASや脈管浸潤の有無、腫瘍の浸潤度、組織型や亜型分類を判定した。 組織マイクロアレイの作成:癌組織の代表的な部位をマーキングし、組織マイクロアレイヤー(Tissue microprocessor KIN-2, Azumaya)を用いて、癌組織から3mmのコアを抜き、別のパラフィンブロックに整列させた(20コア/1ブロック)。組織マイクロアレイから4μmの薄切標本を作製した。 免疫細胞マーカーの免疫組織化学的染色:自動免疫染色装置(Ventana Benchmark System, USA)を用いて、汎Tリンパ球(CD3, CD5)、細胞傷害性Tリンパ球(CD8)、ヘルパーTリンパ球(CD4)、制御性Tリンパ球(CD25, FoxP3)、汎Bリンパ球(CD20, CD79a)、前駆/ 胚中心Bリンパ球(CD10)、汎マクロファージ(CD68)、M2マクロファージ(CD163)の免疫染色を行った。
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今後の研究の推進方策 |
デジタル画像解析システムによる評価:染色標本で各症例の癌組織から、免疫細胞の浸潤が目立つ3視野(200倍視野、接眼レンズの視野数22mm)を選択し、顕微鏡用デジタルカメラ(Olympus)で組織写真を撮影する。画像解析システム(Patholoscope, Mitani Corporation)を用い、腫瘍内に浸潤した免疫細胞数を計測し、3視野での平均値を各症例の計測値とする。 統計解析:医療用統計ソフト(SPSS Statistics Ver23, IBM)を用いて解析を行う。統計解析法としては、Fisher exact test, Mann-Whitney U test, Kaplan-Meier method, Cox proportional hazards regression modelなどを用いる。 免疫細胞の計測数を中間値で2群に分けて、腫瘍の悪性度(患者の予後、腫瘍の大きさ、浸潤度、脈管浸潤、リンパ節転移)との関連性を統計学的に解明する。 統計学的に有意なマーカーに関しては、他のマーカーとの比率を求めるとともに、二重染色の結果から腫瘍免疫微小環境において特異性の高い免疫細胞の分布が、腫瘍の悪性度に与える影響を明らかにする。 再発症例の臨床・病理データファイルの確立、統計解析:香川大学医学部附属病院で1999年~2015年の間に切除され、2019年までに再発が確認された症例を収集し、再発後の治療法(抗PD-1抗体薬、細胞障害性抗がん剤、分子標的薬など)やその治療効果および予後に関して、データの更新を行う。再発症例を抗PD-1抗体薬療法の有無により2群に分けて、腫瘍免疫微小環境(腫瘍浸潤リンパ球や腫瘍関連マクロファージ)とSTASの存在が、抗PD-1抗体薬の治療効果と再発後の予後に与える影響を単変量および多変量解析を用いて統計学的に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大の世界情勢により、国外の会社から購入予定であった画像解析ソフトの購入が間に合わなかった。翌年度分として請求した助成金と合わせて、本年度にはソフトの購入に加えて、不足のある染色試薬を購入する。
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