研究課題
私たちはこれまでに膵癌の治療抵抗性に関わる分子としてClusterin (CLU)を同定した。本研究は、膵癌同様に難治癌である胆管癌におけるCLUの発現動態を調べて、その機能的意義を解明し、動物移植モデルを用いて標的治療法の可能性を検討するものである。これまで胆管癌細胞株を研究対象としてきたが、入手可能な細胞株が限定的であるため、昨年度から生体試料由来の組織培養系の樹立を開始した。今年度は昨年度に引き続き、胆管癌患者から採取した胆汁中に含まれる癌細胞由来の胆管癌オルガノイドの樹立を試みた。新たに37症例の胆管癌患者の胆汁から35例のオルガノイド樹立に成功した。2例の不成功例はいずれも胆管にステントが留置された症例であり、胆管炎合併に伴う細菌のコンタミネーションが原因であった。成功例のうち27例については樹立したオルガノイドを免疫不全マウスに移植して腫瘍形成能と浸潤・転移能、癌悪液質の有無等について調べているところである。これまで10例の胆汁由来オルガノイドにおいて移植したマウスで腫瘤形成を認めた。うち5例では病理学的解析により明らかな胆管癌であることが確認できた。また、移植前後のオルガノイドからゲノムDNAを抽出して、いくつかのがん関連遺伝子についてターゲットシークエンスを施行した。Kras遺伝子やTP53遺伝子の検索から、移植後のオルガノイドではそれらの遺伝子の機能的変異を有する癌細胞の割合が顕著に増えていることを確認した。この結果は、移植前のオルガノイドでは癌および正常胆管上皮由来のオルガノイドが混在すること、移植後のオルガノイドでは癌オルガノイドが選択的に濃縮されることを示している。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では胆管癌細胞株を用いて実験を施行する予定だったが、仮説を検証できるような実験結果は得られず、また国内外の細胞バンクからの胆管癌細胞株の追加も困難だった。そこで昨年度途中から研究材料を細胞株からオルガノイドに変更することにした。今年度はオルガノイド培養技術の向上と培養液配合の工夫により、高い成功率(37症例中35例で樹立成功)でオルガノイドを樹立することが可能となった。また特定の癌関連遺伝子のターゲットシークエンスを施行することで、癌細胞の遺伝子異常のプロファイルとその頻度を検索出来た。さらに、免疫不全マウスに移植することで癌オルガノイドの濃縮と、マウス移植・治療実験のモデル作成にも成功した。結果として、細胞株からオルガノイドに変更したことにより、生体の胆管癌により近い組織培養系を構築することができ、臨床応用に向けた研究ツールとして利用可能となった。
マウス移植後の腫瘍から組織学的に胆管癌と確認できるオルガノイドを10例前後まで増やす。次に、各々のオルガノイドのCLUの発現動態をリアルタイムPCRおよびWestern blotで解析する。高発現を示したオルガノイドについては、siRNAを用いたCLU発現抑制を、低発現のオルガノイドにはレンチウイルスを用いた一過性CLU発現誘導を行い、細胞形質(増殖・浸潤・生存能)への影響を調べる。また、抗がん剤(GEMおよびCDDP)の感受性がCLUの発現変動により変化するか否かを検証する。さらに、オルガノイドのゲノムDNAを用いたエクソームシークエンスを施行することで、遺伝子異常の網羅的プロファイルを得る。以上の結果を統合して、胆管癌における新規治療標的を検索する。
当初の計画では胆管癌細胞株を用いて実験を施行する予定だったが、仮説を検証できるような実験結果は得られず、また国内外の細胞バンクからの胆管癌細胞株の追加も困難だった為、昨年度途中から研究材料を細胞株からオルガノイドに方針変更したことより使用計画に変更が生じた。その後のオルガノイド樹立およびそれを用いたマウス移植やその後の形成腫瘍解析等は順調に進んでおり、次年度では各々のオルガノイドのCLUの発現動態や細胞形質(増殖・浸潤・生存能)への影響を調べる計画である。また、抗がん剤(GEMおよびCDDP)の感受性がCLUの発現変動により変化するか否かを検証する。さらにオルガノイドのゲノムDNAを用いたエクソームシークエンスを施行することで遺伝子異常の網羅的プロファイルを得る計画である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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