研究課題/領域番号 |
20K07398
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
倉田 厚 東京医科大学, 医学部, 准教授 (10302689)
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研究分担者 |
黒田 雅彦 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (80251304)
大野 慎一郎 東京医科大学, 医学部, 講師 (90513680)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 冠動脈ステント / 平滑筋 / 免疫組織化学 / h-Caldesmon / Calponin / FAP |
研究実績の概要 |
応募者らは、冠動脈や頚動脈の動脈硬化性プラークの不安定化に関して、h-caldesmon発現低下で明らかとなるプラーク内平滑筋の成熟度の低下が関与することを見出した。一方、虚血性心疾患の治療の柱である経皮的冠動脈形成術では、従来型のBare Metal Stent(BMS)は再狭窄のリスクがあったが、抗がん剤等が溶出するDrug Eluting Stent(DES)により再狭窄率が著減した理由は平滑筋増殖抑制によると考えられているが、それら平滑筋の質(分化度)に関しては研究されていない。本研究は、DESにより平滑筋が分化・成熟したかどうか、分化・成熟したならそれが再狭窄抑制に寄与したかを検証することが主目的である。 これまで、当院(東京医科大学病院)にて剖検となり、冠動脈にステントが挿入され、挿入後4年以上経過して平滑筋を主体とする内膜の増殖が認められた症例について、BMS 4例とDES 5例を選定し、内膜における「h-Caldesmon陽性数/α-SMA陽性数」および「Calponin陽性数/α-SMA陽性数」を指標とする平滑筋分化度を調査した。さらには逆に、「FAP陽性数/α-SMA陽性数」を指標とする平滑筋の脱分化度も調査した。その結果、DES群では、BMS群に比してステント部で有意な内膜平滑筋の分化・成熟が認められた。 次に、DESの薬剤のうちどちらが平滑筋分化をもたらしたかを調べるために、ヒト冠動脈平滑筋培養細胞に、DESの薬剤のパクリタキセルおよびラパマイシン(シロリムス)を添加した。培養細胞の長径の延長、蛋白解析でのCalponin発現の亢進とFAP発現の低下を分化の指標とした。その結果、パクリタキセルでは分化せずにラパマイシンで分化することを見出した。 上記の研究成果の一部は、第26回日本血管病理研究会(令和3年11月宮崎県宮崎市)などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来より、動脈硬化におけるプラーク安定化に、α-SMA陽性で示される全平滑筋を分母として、h-Caldesmon陽性で示される分化した平滑筋の量が関わることは、冠動脈や頸動脈で提唱してきた。では、平滑筋の分化が、冠動脈へのステント植え込み術にて予後が改善したDESにおいても関与する可能性を考えた。さらには、分化の指標として、h-CaldesmonのみならずCalponinも加え、逆に脱分化の指標としてFAPを検討した。 今回、当院での倫理委員会の承認を得て(承認番号:T2020-0087)、当院で剖検となり、冠動脈にステントが挿入され、挿入後4年以上経過して内膜増殖が認められた症例について、BMS 4例とDES 5例を選定した。各々の症例において、ステント部、非ステント部の冠動脈を切り出し、内膜にてα-SMA陽性となる平滑筋のh-Caldesmon、Calponin、FAPの各陽性率を同一視野にて算出した。 その結果、DES例ではBMS例に比して、内膜における平滑筋のうち、h-CaldesmonおよびCalponinを指標とする平滑筋分化度の有意な上昇、FAPを指標とする平滑筋脱分化度の有意な低下がみられた。これらの結果、DESにより内膜平滑筋は、増殖抑制のみならず分化成熟がもたらされることが示唆された。 加えて、DESの薬剤のうちどちらが平滑筋分化をもたらしたかを調べるために、ヒト冠動脈平滑筋培養細胞(CC-2583, Lonza)に、DESの薬剤のパクリタキセルおよびラパマイシン(シロリムス)を添加した。培養細胞の長径の延長、ウエスタン・ブロッティングでのCalponin発現の亢進とFAP発現の低下を分化の指標とした。その結果、パクリタキセルでは分化せずにラパマイシンで分化することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
剖検検体の研究で、抗がん剤等を添付した薬剤溶出ステントが血管内膜平滑筋の分化成熟をもたらすことが示唆されたが、この因果関係をより明確にするために、①細胞の免疫組織化学的実験、②動物モデルでの実験を行っていく。 具体的には、①では、冠動脈平滑筋培養細胞(CC-2583, Lonza)を用いて、パクリタキセル添加群およびラパマイシン添加群にて、Calponin発現やFAP発現が、陽性数率がウエスタン・ブロッティングでみられたと同様に変動するかを、免疫組織化学法により検証する。分化のポジティブコントロールとして、TGF-β添加群を設定する。 ②では、動脈硬化モデル動物で実験的に動脈硬化を発生させ、屠殺後にその動脈を採取し、h-Caldesmonおよびα-SMAの免疫組織化学検討を行う。これまでのヒト冠動脈および頚動脈で示してきたような、h-Caldesmon/α-SMA比の低下が認められるかどうかを調査していく。また、これらh-Caldesmon/α-SMA比の低下は、アポE欠損マウスのような先天的な異常でより生じるのか、高脂肪食のような後天的な異常でより生じるのか、ないしはガラス玉覆い隠し行動のようなストレスで生じるのかを、実験条件を変えることで検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養実験のうち、当該年度で行う予定のものが、予備実験に時間がかかったこと等のために当該年度内で行われずに、次年度に繰り越しとなったため、その実験に付随する試薬等の使用が次年度に繰り越されたため。
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