研究課題
本年度は、染色体非転座型の肉腫検体から得られたRNAシークエンスデータを解析した。これら従来は融合遺伝子陰性腫瘍とされてきた肉腫の中に、相当数(15%程度)のチロシンキナーゼ受容体を含む融合遺伝子を有するものが存在することを見出した。多くはout-of-frameであったが、一部はin-frame fusionであったことから、融合遺伝子形成に繋がる染色体転座という現象は実際のところかなり多くの肉腫で起こっていることが推察された。一方、in-frame fusionについては、RT-PCRでも融合遺伝子後に、融合遺伝子に含まれるチロシンキナーゼ受容体のタンパク質発現を免疫染色でも確認することが出来た。これらのチロシンキナーゼ受容体を含む融合遺伝子については、一部について機能解析も行い、腫瘍形成能やチロシンキナーゼ阻害剤による抗腫瘍効果についても確認した。また一方で、チロシンキナーゼ受容体に対する有用な免疫染色抗体があまりないため、これまで見つかっていなかったが、本研究により肉腫にもチロシンキナーゼ受容体を含む融合遺伝子腫瘍が潜んでいる可能性が示唆された。そこでチロシンキナーゼ受容体を含む融合遺伝子の検出方法について模索しているが、その1つにNanoStringを用いたRNAレベルでの遺伝子発現不均衡解析が挙げられる。これはチロシンキナーゼ受容体遺伝子の5'-サイドと3'-サイドに各々プローブ設定を行い、その発現量の違いを調べることから融合遺伝子形成の可能性を探索するものであるが、本研究の結果ではこの解析方法では検出出来ないような例がかなりあることも推察された。そのため、融合遺伝子形成の最終産物としての免疫染色による検出方法に加え、遺伝子発現不均衡解析にもプローブ設定の位置や数について修正を加えていく必要性を感じている。
3: やや遅れている
希少がんであるために、症例の蓄積に時間を要している。
チロシンキナーゼ受容体を含む融合遺伝子陽性腫瘍を集積し、それらの臨床病理学的特徴をまとめる。特にチロシンキナーゼ阻害剤の使用例については、その効果と他の遺伝子異常の有無等の比較を行い、治療抵抗性に関わる因子を見つけていく。また、症例の集積・解析に関しては、海外施設との共同研究により解決していく。
解析費用が高額であるRNAシークエンス、アーチャー解析を行う必要のあるサンプルが予測されたため。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
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