研究実績の概要 |
我々は、動物モデルと被爆者腫瘍組織を用いて放射線発がんの分子病理学的特徴解析を推進している。これまでにラット放射線誘発甲状腺発がんモデルにより、被ばく後がんに至るまでの分子変化を経時的に解析し特異的異常を探索し、mRNA発現解析にて、がん発症以前からDNA損傷応答や細胞周期調節系の有意な変化を認めることを確認した。その中で4Gy照射16ヶ月後の非腫瘍組織でいくつかのバイオマーカー候補を同定し、発がん期の被ばく甲状腺を的中できるかを盲検的に検討した。7週例雄性ラット20匹を対象にして、うち10匹に4GyのX線を前頸部に照射、16ヶ月後に甲状腺を摘出し、抽出したRNAを匿名化し、droplet digital PCRを実施した。cdkn1a/actin mRNA比>11.69のサンプルを被ばくありとして検索した結果、陽性的中率100%、陰性的中率69%であった。この成果は国際学術雑誌にアクセプトされた[Kurohama H, Nakashima M, et al., Comprehensive analysis for detecting radiation-specific molecules expressed during radiation-induced rat thyroid carcinogenesis. J Radiat Res (in press)]。放射線誘発がん特異的変異シグネチャー解析に関して、「長崎原爆被爆者腫瘍組織バンク」の中から近距離被爆者の甲状腺がん7例、肺がん13例の網羅的解析を完了し、合計2214のstructural variants(SV)を検出した。甲状腺がんのSVは顕著に少なく、1Kb以下の小規模SVが大半を占め、ランダムに分布していた。肺がんではChr.7,2,19,3,9にSVのhot spotsを見出し、その特徴を解析中である。
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