研究課題
放射線誘発甲状腺癌ラットモデルを用いて、がん化過程において被曝特異的、時間依存的に変化する分子発現を網羅的に解析し、被曝バイオマーカーを検索した。放射線被曝甲状腺では前がん状態より3,000以上の遺伝子発現が変動していて、分子病理学的異常が病理組織学的変化に先行することが示された。中でもATM関連DNA損傷応答や細胞周期調節系、細胞接着因子の有意な変化を認め、非照射群と比較し照射群ではがん、非がん組織ともに、atm,53bp1、xrcc4発現は低下、cdk1、cdkn1a、cdkn2a発現は亢進、cldn4、cldn9、ctnnb1発現は低下を示すことが判明した。検証実験ではcdkn1a定量が発がん期における被曝甲状腺組織のバイオマーカーとなる可能性があることを示した。さらに、被ばく甲状腺発がんの分子疫学的特徴のひとつである、若齢被ばくによるリスク亢進メカニズムについてラットモデルで解析した。その結果、若齢被ばくラット甲状腺組織では、発がん期においてオートファジーを構成する分子のmRNAの多くが減少し、放射線誘発甲状腺がんでは隔離膜の構成分子であるLC3とp62の発現が抑制されていることを報告した。若齢被ばく甲状腺発がんリスク亢進がオートファジー不全に基づく事を初めて明らかにした。「長崎被爆者腫瘍組織バンク」の試料を用いて、全ゲノム解析を推進中である。特に若齢近距離被ばく群で放射線の関与が高率である、甲状腺がんと肺がんのDNAを対象にし、合計20例の網羅的解析からのデータセットで、合計2214のstructural variants(SV)を検出し、その特徴を解析中である。被爆者腫瘍組織バンクの現状について、昨今の新型コロナウイルス禍で試料収集数が著減しており、貴重な近距離被爆者腫瘍のバンキングが危機的であることを報告した。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件)
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