研究課題/領域番号 |
20K07425
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
池田 八果穂 大分大学, 医学部, 講師 (80363547)
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研究分担者 |
長谷川 英男 大分大学, 医学部, 名誉教授 (00126442)
松浦 恵子 大分大学, 医学部, 教授 (00291542)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Hippo pathway / モデル生物 / 線虫 / 阻害剤 |
研究実績の概要 |
Hippo pathwayは進化的に保存されたシグナル伝達経路であり、ヒトやマウスなど哺乳類、ショウジョウバエなどの昆虫類、本研究で使用する線虫類といった動物に広く存在することが知られている。Hippo pathwayの機能としては細胞の増殖、臓器の大きさの決定、腫瘍の抑制、発生や再生の制御など多くの生命活動で重要な役割をはたしていることがわかってきており、ガンや再生医療の創薬標的としても注目されている。 線虫の一種Caenorhabditis elegansは大きさが1mmと小さく約3日で卵から成虫になるためマウスなどに比べると大きな飼育施設を必要とせず短期間に大量に培養することが可能であり、また体が透明で顕微鏡観察に適しているため、遺伝子の解析などで優れたモデル生物として用いられている。本研究では、RNA干渉法によりHippo pathwayの複数のコンポーネントをノックダウンしたモデル線虫を作成して表現型の異常を詳細に観察すること、新規PPI阻害剤を用いてモデル線虫の表現型を回復する化合物を同定することを目的とし、Hippo pathwayを制御する薬剤の評価システム確立を目指している。 本研究の初年度である2020年度は第一段階としてHippo pathwayコンポーネントをノックダウンした線虫の作成を試みて実験に適した培養条件の検討を行なった。その結果、表現型に異常のある線虫を培養し観察することができた。すなわち今後の研究で新規PPI阻害剤の効果を検証するためのモデル線虫を作成できることが確認できものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線虫C. elegansの培養には通常、プラスチックシャーレとNGM寒天培地が用いられ、線虫は培地上に増殖した大腸菌を餌として育つ。しかし本研究においてRNA干渉法や阻害剤の効果の検証を行うためには、より小さな環境でより多くの条件を検証できるような培養方法が望ましい。またPPI阻害剤はDMSOに溶解した低分子化合物であるため寒天培地ではなく液体培地での実験が必要と考えられる。そこで、12穴プレートと、寒天を含まない様々な濃度のNGM液体培地、LB液体培地、2xYT液体培地を用いて線虫の培養に適した条件を検討した。その結果、LB液体培地や2xYT液体培地では大腸菌の過剰な増殖によって線虫が死滅してしまう一方、通常より低濃度のNGM液体培地を用いると線虫が成虫まで正常に成長することが分かった。 RNA干渉は特定の遺伝子と相補的な2本鎖RNAによって遺伝子発現が抑制(遺伝子のノックダウン)される現象であるが、本実験ではフィーディング法を用いたRNA干渉を試みた。フィーディング法とは目的とする遺伝子を導入した大腸菌を線虫に餌として食べさせることによって線虫の遺伝子をノックダウンする方法である。この方法を用てHippo pathwayのコンポーネントであるYAPをノックダウンした線虫を作成したところ、成虫の陰門に異常な突出が形成されることが分かった。 以上の結果は液体培地において線虫を培養、RNA干渉法によってノックダウンし、それを表現型の異常として観察できることを示しており、薬剤の効果を検証するうえで線虫がモデル生物として有用であることを確認できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験でYAPのノックダウンについては表現型を観察することができたが、今後はYAP以外のHippo pathwayコンポーネントについても単独あるいは複数の組み合わせでノックダウンした線虫を作成し、実体顕微鏡およびレーザー共焦点顕微鏡を用いて表現型の詳細な観察を行う。 また12穴プレートとNGM液体培地で線虫の培養ができることが分かったが、今後の研究において薬剤の効果を検討する際にはできるだけ多くの種類や様々な条件を一度に比較できることが望ましいので、24穴や48穴プレートを用いてさらに少量の培地でより多くのサンプルを作成できるような方法を検討する。 新規PPI阻害剤ライブラリーの多数の化合物について線虫の卵とともに液体培地中に撒いてRNA干渉を行い、表現型の異常が消失する化合物を選択する。阻害活性の見られる化合物については標的タンパク質との結合性を検証する。またHippo pathway阻害剤としてすでに知られている薬剤と効果の比較を行う。 以上のようにモデル線虫と新規PPI阻害剤ライブラリーを組み合わせることによって医療に応用可能なHippo pathwayを制御する新規薬剤の開発と薬剤評価のシステム確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はサンプリングチューブやプラスチックシャーレ、試薬などの消耗品が予定よりも少ない量で充足したため、物品費に未使用額が生じた。また新型コロナウイルス禍による移動や会合自粛のため、旅費に未使用額が生じた。 2021年度はミュータントの維持と改変やコマーシャルベースでのRNA干渉用の大腸菌株の使用を予定しており、またノックダウンする遺伝子の種類や組み合わせ、薬剤の種類や濃度などより多くの条件を検討するために消耗品が必要となるので、次年度使用額を合わせて使用する計画である。
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