私たちは、日常生活で様々な環境要因に曝されている。こうした環境要因はアレルギー疾患だけでなく、自己免疫疾患の発症や病態に影響を与えることが示唆されている。本研究の目的は、環境要因によって変化する腸内細菌叢が自己免疫応答の活性化にどのように寄与するかを明らかにすることである。これにより、外因性要因が内因性要因に対する過剰な反応を引き起こすメカニズムを明らかにし、様々な免疫疾患に対する新たな予防・治療戦略の提唱が期待できる。本研究では、環境要因による慢性的なTLR7シグナルの活性化を想定し、これによる腸内細菌叢の変化が自己免疫応答にどのような影響を及ぼすかを検証した。以下に、2023年度に得られた研究成果を示す。 これまでの研究成果で、慢性的なTLR7シグナルの活性化が腸内細菌叢を変化させることを明らかにした。しかし、実験動物を入手した時点で腸内細菌叢の構成は大きく異なっており、TLR7シグナルの活性化後の変化の法則を明らかにできなかった。したがって、変化した腸内細菌叢 (集団) に焦点を当て、ホストの自己免疫疾患との関連性を2種類の実験で検証した。まず、抗生剤投与による腸内細菌叢の減少を試みた。本研究ではアンピシリン、ネオマイシン、バンコマイシンの3剤混合水を自由飲水させる実験を行った。その結果、TLR7シグナルを活性化させた抗生剤投与群では血中の自己抗体価がわずかに、しかし有意に増加した。一方、CD4陽性T細胞の活性化などの遺伝子発現は、抗生剤投与の有無にかかわらず変化しなかった。次に、腸上皮タイトジャンクション因子の一つであるZO1をターゲットとした腸管上皮バリアの保護を試み、菌体成分の体内移行を阻害し、同様に自己抗体産生への影響を検証した。しかし、自己抗体産生に変化は見られなかった。
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