研究課題/領域番号 |
20K07430
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
伊東 史子 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (70502582)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TGF-β / BMP / 肺高血圧症 / 遺伝子改変マウス / 腫瘍血行性転移 |
研究実績の概要 |
TGF-β,BMP,Myostatinを含むTGF-βファミリーは、生命維持に必須のサイトカインである。シグナルの異常はがんの悪性化関与するほか,家族性出血性末梢血管拡張症や肺動脈性肺高血圧症(PAH)などの難治性血管疾患の原因となることが知られている。本研究では、血管・リンパ管内皮細胞のTGF-β-BMPのバランス異常に起因する難治性血管疾患の血管病変および腫瘍血行性転移のメカニズムを明らかにし、難治性血管疾患治療薬および腫瘍血行性転移抑制薬など新たながん治療薬の開発を目指している。 血管内皮細胞特異的かつタモキシフェン誘導的に細胞内シグナル伝達因子であるSmad1とSmad5遺伝子を欠損したマウスは、BMPシグナルが遮断されたマウスであり、遺伝子欠損後に肺高血圧症を発症して死亡することを見出している。このマウスの血管構造をブルーラテックスにより可視化すると、血管の分岐が低下すること、極端に閉塞していること、を明らかにした。さらに肺の病理解析から、肺血管において血栓が形成されており、血管内皮細胞のTGF-βシグナルが亢進していた。LPSを野生型マウスに腹腔内投与した敗血症モデルマウスを作成して解析したところ、血栓形成にTGF-βが関与している可能性を得た。 リンパ管内皮細胞特異的にGF-βシグナルを欠損したマウスを作成したところ、リンパ管の初期発生にはTGF-βシグナルは関与しないが、リンパ管の構造と機能維持にTGF-βシグナルが必須であること、TGF-βシグナルが腫瘍リンパ行性転移を促進することを報告した。 血行性転移しやすい肺がん細胞(ルイス肺腺癌;LLC)の解析から、転移に関与すると予測される分子の選択的スプライシングが変化していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
得られたマウスの表現型は、肺高血圧症は世界初の自然発症型肺高血圧症モデルマウスとしての可能性が示されている。このマウスの解析により、肺高血圧症の病態メカニズム解明につながると期待できる。 リンパ管内皮細胞特異的TGF-βシグナル欠損マウスの解析から、腫瘍リンパ行性転移にTGF-βシグナルが促進因子として機能することを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
1.血管内皮細胞特異的かつタモキシフェン誘導的にSmad1とSmad5遺伝子を欠損するマウスマウスにTGF-β阻害剤を投与して、血栓が軽減できるか、また生存期間を延長できるか検討する。TGF-β-BMPのバランスを破綻させた場合に,遺伝子改変マウスで得られた結果になるか検証する。 2.血行性転移能が亢進したがん細胞で発現が変動した分子群を過剰発現または発現抑制させて腫瘍血行性転移への影響を生体解析する。さらに、選択的スプライシング制御にTGF-βがどのように関与しているのか明らかにする。 3.改良したMyostatin阻害剤を用いてがん悪液質治療への効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19のため、国際学会が2022年に延期されたため。
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