研究課題/領域番号 |
20K07433
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
佐藤 文孝 近畿大学, 医学部, 助教 (30779327)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動物モデル / 併用療法 / 神経免疫疾患 / T細胞 |
研究実績の概要 |
多発性硬化症(MS)は,中枢神経系(CNS)へのCD4陽性ヘルパーT(Th)17細胞とCD8陽性T(CD8+ T)細胞の浸潤を伴う脱髄と軸索障害の二つの神経病理像を特徴とする神経疾患である。MS基礎研究より,Th17細胞が病態の中心であると示唆されている。しかしながら,MS治験においてTh17細胞機能を抑制する治療薬はいまだ十分な効果を認めていない。その原因として,治療薬の開発に利用されているMS動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)ではTh17細胞が病態の中心であり,CD8+ T細胞の関与がないことが挙げられる。本研究では,EAEおよびTh17細胞とCD8+ T細胞がCNSに浸潤するヒトMS病理像類似の動物モデルであるタイラーウイルス誘導性脳脊髄炎(TMEV-IDD)を用い,Th17細胞機能を増幅した際の脱髄・軸索障害への影響の有無を検証した。令和2年度は,Th17誘導剤であるカードランを用いてTh17細胞を増加させたところ,それぞれの対照群(非投与群)に比べてEAEではカードラン投与群で病状が悪化,TMEV-IDDではカードラン投与群で病状が軽減することを見出した。両モデルのCNSを病理学的に検討した結果,症状と一致してEAEではカードラン投与群は対照群よりも脱髄・軸索障害が共に悪化していた。一方,TMEV-IDDでは脱髄病変に違いは見られなかったが,軸索障害がカードラン投与群で有意に減少していた。軸索変性にはCD8+ T細胞が関与していることから,CD8+ T細胞反応を調べた結果,カードラン投与群において減少傾向が見られた。つまり,Th17細胞の増加がCD8+ T細胞を抑制し,軸索障害を軽減したことを示した。本成果からMS病態におけるTh17細胞とCD8+ T細胞間の新規のコミュニケーションが明らかとなり,新たな治療法の確立へとつながる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの病態の異なるMS動物モデルを用いてTh17細胞の役割を比較検討した研究で,かつMSにおいてTh17細胞が善玉として働く可能性を示唆した成果は極めて少ない。令和2年度には病態の異なる二つのMS動物モデルにおいて,Th17誘導剤のカードランを投与の影響の有無を検討した。EAEではカードラン投与によるTh17細胞の増強により脱髄・軸索障害が悪化することでEAE症状が増悪し,従来の報告通りTh17細胞が悪玉として働くことを見出した。一方,TMEV-IDDではカードラン投与により軸索障害が低下するとともに病状が軽減することを見出した。また,カードラン投与群では軸索障害に関与するCD8+ T細胞の割合が減少していたことから,Th17細胞によるCD8+ T細胞機能の抑制の役割を示唆した。現在、本研究成果をもとに論文の執筆中であることから、令和2年度の研究達成度としてはおおむね順調と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度までに行ってきた研究より得られた結果の補強を行う。特に,MSにおけるTh17細胞とCD8+ T細胞間の新規コミュニケーションをより解明するため,Th17細胞分化に関わる転写因子を阻害するジゴキシンを用いてTh17細胞機能を抑制することにより軸索障害が悪化するかをTMEV-IDD症状の継時的観察およびCNSを病理学的に解析する。また,ジゴキシンの投与によりCD8+ T細胞の割合が増加するかも検討する。これらにより,MS治験においてTh17細胞機能を抑制する治療薬がいまだ十分な効果を得られていない原因を明らかにする。また,Th17細胞だけではなくCD8+ T細胞も抑制する併用療法を行うことで,脱髄・軸索障害ともに軽減するかを試みる。令和3年度には、執筆中の論文も完了する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)急遽並行して行うこととなったコロナ関連研究からの支出により出費削減ができたこと,また以前から行っているマウスの繁殖による維持が安定して行うことができ,当初マウスの購入に要すると考えていた費用の多くが解析用消耗品費として使用したため,次年度使用額が生じた大きな要因である。 (使用計画)これまでと同様に,令和3年度以降の研究経費の多くは解析用消耗品費にあてる予定である。さらに,Th17細胞およびCD8+ T細胞の機能増強試験行うため,細胞を単離・移入するためのキットおよび試薬を購入し,免疫学的・病理学的に解析を行う予定であるため,そちらにも相当額を要すると推測される。
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