研究課題/領域番号 |
20K07435
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
高岡 宗徳 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (50548568)
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研究分担者 |
山辻 知樹 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40379730)
石田 尚正 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80805896)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 薬剤誘発性酸化ストレス / 抗がん化学療法 / 消化管粘膜障害 / 鉄代謝経路 / フェロトーシス / アミノレブリン酸 |
研究実績の概要 |
抗がん化学療法による有害事象には、組織内での薬剤誘発性酸化ストレスが組織障害の一因となることが知られている。酸化ストレスによって生じる細胞傷害の1つに、鉄代謝経路に関連した細胞死フェロトーシス(ferroptosis)の存在が明らかとなった。 本研究は、抗がん剤化学療法における重大な有害事象の1つである消化管粘膜障害の発生機序を、鉄代謝経路に着目して明らかにし、鉄代謝経路の重要分子である5‐アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid; 以下5-ALA)がもたらす酸化ストレス抑制効果に着目した薬剤性消化管粘膜障害に対する新規支持療法の確立を目指す。この仮説を実証するため、マウス小腸上皮より分離培養したオルガノイドを用いた腸管上皮環境モデルを作製し、消化管粘膜障害を惹起することで知られる抗悪性腫瘍薬イリノテカン(CPT-11)の代謝産物SN-38および5-ALA共投与下でのHO-1の発現ならびにオルガノイド構成細胞の細胞障害および保護効果を検討した。正常腸管上皮細胞においては、5-ALAによるHO-1誘導が認められた。SN-38投与により5-ALA非存在下では発現抑制されるHO-1が、5-ALA共投与により発現維持されることを確認した。マウス小腸上皮より分離培養したオルガノイドを用いて同様の5-ALA投与を行うと、オルガノイド構成細胞にHO-1発現が誘導された。SN-38をオルガノイドに投与すると、オルガノイド構成細胞に酸化ストレス反応と共に細胞死シグナルが発現されるが、5-ALA共投与下ではHO-1発現誘導と共に細胞死が減少した。本研究での最大の目標は、薬剤誘発性酸化ストレスが及ぼす組織傷害におけるフェロトーシス関与の解明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の基礎となる先行研究の結果をまとめた学会発表及び論文発表を終えたが、その後、本研究の期間となるフェロトーシスアッセイの確立に手間取っていること、臨床従事の時間が多くなり、研究に費やす時間が確保しづらい状況にあり、また実験に従事する人材の確保ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
主にラット正常上皮細胞(IEC6, IEC18)を用いて培養細胞実験を行う。抗がん剤は消化器がんに頻用されるCPT-11(イリノテカン)および、同薬剤の消化管粘 膜傷害に主に寄与する生理活性物質(SN-38)を用いる。培養細胞実験ではSN-38、動物実験では肝代謝を考慮し、CPT-11を用いるが、必要に応じ、適宜SN-38の 直接投与も考慮する。動物実験に際しては、マウス腸管オルガノイドを用いて再現性の評価を前もって行う予定とする。酸化ストレス反応および細胞死誘導を効率的かつ迅速に評価するために、ウエスタンブロットおよび免疫染色、細胞増殖能試験(WST-1アッセイ)を導入、フェロトーシスの存在はマーカー(GPx4, Glutathione)発現をウエスタンブロットにより検討する。フェロトーシスの本質である脂質過酸化物(脂質ROS)の蓄積も、フェロトーシス阻害剤(Ferrostatin-1, Liproxstatin-1)も併用しつつ検討する。 最終的には、腸管オルガノイド及び実験動物を用いた再現性を検討する。そのための準備はある程度整っていると考える。うまくいかない場合は、5-ALA供給元であるSBIファーマ株式会社の担当者とディスカッションを行い、5-ALA投与タイミングや投与量の至適条件を再設定する。上記の研究推進にあたり、医師働き方改革導入に伴う臨床従事時間の適正化を利用して、研究に従事する時間の確保が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目は、主に本研究に発展する基礎的データの発表と動物実験準備に重点を置き、2年目・3年目は実験を本格的に執行するため、消耗品費用に供する予定であったが、コロナ渦による臨床業務多忙に伴い、予定していた実験に取り掛かることができず、予算執行できなかった。さらに、実験に従事する人材の確保が困難であった。1年間の研究期間延長を得て、研究遂行のために必要な実験費用に供する予定である。
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