研究課題
膵臓癌の95%を含む、ヒトの全がん種の30%以上は、RASファミリー遺伝子の変異によって引き起こされる。変異型RASの働きを抑える薬剤はいまだ作り出されていない。最近、興味深いことに、変異原メタンスルホン酸エチル(EMS)を用いたショウジョウバエでの遺伝学的スクリーニングにより、PP6遺伝子Ppp6cの欠損が癌性RASと協調して腫瘍細胞の増殖と浸潤を誘導することが確認され、Ppp6cがRAS関連がんの腫瘍抑制因子として機能する可能性が示唆されていた。我々は、タモキシフェン(TAM)依存的に活性化されるCREにより、膵臓特異的にKP変異(K-rasG12D発現+Trp53欠損)を引き起こすマウス(cKPマウス)を作製した。そのcKPマウスにPP6遺伝子(Ppp6c) floxedマウスを交配させ、 Ppp6cホモ欠損型のcKPマウス(cKP(F/F)) 、Ppp6cヘテロ欠損型のcKPマウス(cKP(F/+)) 、およびPpp6c野生型のcKPマウス(cKP(+/+)) を作製した。これらマウスに、母乳を介してTAMを投与し、膵臓特異的に、K-rasG12D発現、Trp53欠損、Ppp6c欠損が起こることを確認し、Ppp6c欠損の膵腫瘍発生に及ぼす影響を調べた。cKP(F/F) マウスは、変異誘発後150日以内に全てのマウスにおいて、膵腫瘍を発症し衰弱して死亡したが、cKP(F/+) マウスやcKP(+/+) では、150日以内の死亡は認められなかった。膵腫瘍発生メカニズム解明のため、変異誘発後30日目のcKP(F/F) のトランスクリプトームを、cKP(F/+) のそれと比較した。Ppp6cホモ欠損型ではMAPKおよびNFκBシグナル伝達経路の著しい活性化を示す遺伝子発現が認められた。次に、変異誘発後80日目における腫瘍発生に関して検討した。cKP(F/F) の膵臓では、cKP(F/+) のそれと比較して、腫瘍の数と大きさ、前癌病変の数が有意に増加した。cKP(F/F)の膵臓で認められた腫瘍は、病理学的にはEMTを起こした浸潤性膵管癌(PDAC) と診断された。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cancer Sci.
巻: 113(5) ページ: 1613-1324
10.1111/cas.15315.