研究課題
二年目(2021年度)に行ったのは以下の通りである.これまでglioblastoma(GBM)の核形態について,よく揃った小型核からなるもの(MS-GBM,MS)と,核の多形性の顕著なもの(GC-GBM, GC)への分類を視覚的に行っていたが,これらの症例の核形態の画像解析を行い,両者に有意差があることを証明した.これは今後種々の腫瘍を用いた解析の基礎になるものである.最初に核の計測数が最低いくら必要かを調べるため,100個,200個,300個,400個,500個の核を測定して,MS と GC の有意差を調べ両群と形態学的特徴の関係を検討したところ,100個から500個いずれにおいても,面積,長径,短径,周囲長の標準偏差においてMSとGCに有意差がみられ,最低100個の核の計測で十分である事,およびMAとGCで核形態がよく揃ったとそうでないものとの相違を数値で表す事ができた.そして核形状が不揃いなものはDNA二本鎖切断が顕著であり,Olig2 陽性率が低いことが判明した.またTERT プロモーター遺伝子は GC はいずれも変異が無く,MS では全例変異がみられた.以上の結 果から、核の形態比較では 100 個以上のカウントで有用であること、核が揃っている腫瘍では DNA 損 傷からの保護作用が強くそれにはテロメア活性や幹細胞性が関与している可能性がある事が示唆された.そこで今後はテロメアを重点的に調べることにした.そのために他施設と共同で脳腫瘍のテロメア長と悪性度の関係を調べることを開始した.当該年度では髄膜腫においてgradeとテロメア長を比較したところ,grade IとIIでは有意差がなかったが,grade IIIになると有意な短縮が認められた.また大腸癌21例において核の形状のばらつきとtumor mutation burdenの関係を調べたが相関は得られなかった.
2: おおむね順調に進展している
概ね順調に進展していると評価する.当該研究では核形態がよく揃っているものと,多形性の顕著なものを比較する事でDNA保護作用を初めとする幹細胞性維持機構の違いを調べることが目的であり,そのための核形状評価法が確立した意義は大きい.具体的には,BZ-X710(KEYENCE)を用いて倍率 40 倍で撮影して核を認識させたのち,核の面積,長径,短径,周囲長,形状係数(真円は1,楕円あるいは不整形が1以下となり,変形ないし形のゆがみが強いほど数値が小さくなる)を計測し,それぞれの標準偏差を求め,標準偏差が小さいほど核形態が揃っている指標であると考えそれを証明した.新型コロナウィルスが終息しない状況で,他施設との往来が停滞したが,本研究の重要ポイントの一つであるテロメアに関して,髄膜腫をモデルに計測したところ,悪性度とテロメア短縮との有意な相関が得られ,それを論文化できたことも進展である.
課題最終年度は,MS-GBMとGC-GBMでのテロメア長を測り両者で有意差があるかどうかを調べる.幹細胞性の高いMSと低いGCでは有意差があることが期待される.また核の形状のばらつきとDNA変異との相関を各種の癌で調べる.大腸癌ではさらに症例を追加する.またDNA傷害の多寡とDNA変異との関係も調べる.これらによって,DNA保護作用と核形状の関係を明らかにし,当該研究の目的である核形状の均一性,DNA傷害抑制機構,癌幹細胞性維持に相関があることを明らかにする.
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