研究課題
ナノスーツ法を用いて肺腫瘍における一次繊毛の電子顕微鏡像を取得し、その頻度を明らかにすることに世界で初めて成功したので、その研究について報告する。肺の悪性腫瘍である腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌に対して、繊毛マーカーであるARL13Bに対する抗体を用いた免役組織化学的解析を行った。その結果、腺癌、扁平上皮癌に比べて、小細胞癌において高頻度で一次繊毛が存在することが明らかになった。確証を深めるため、異なる抗ARL13B抗体を用いた免疫組織化学を行うと同様な結果を示した。また、免疫蛍光染色を行うと、肺腫瘍における抗ARL13B抗体免疫蛍光陽性像は、別の繊毛マーカーであるアセチル化αチュブリンに対する抗体での免疫蛍光陽性像と共在した。さらに、浜松医科大学で近年開発されたナノスーツ法を用いて、抗ARL13B抗体を用いた免疫染色標本を塩化金染色した後、電界放出型走査電子顕微鏡で観察した。このBSEモードで抗ARL13B抗体陽性部位が明らかになり、その部位をSEモードで観察することにより、一次繊毛の立体構造写真を得ることに成功した。以上のことから肺悪性腫瘍における一次繊毛の存在はより確実なものであると判断された。この肺悪性腫瘍における一次繊毛は、正常組織における一次繊毛と比べ、長さが有意に長いという性質を示し、また、肺小細胞癌で観察すると、Ki67陽性増殖細胞に一次繊毛が存在することも示された。さらには、リンパ節等への転移箇所において一次繊毛形質が保持されていることも示された。さらなる検討を現在進めている。また、他の腫瘍において、診断に役立つ電顕所見が、ナノスーツ法を用いて簡便に得られることを示唆するデータを得つつあり、最終年にまとめたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
研究時間を予定どおり確保できており、概ね順調に進展しています。
今後も、ナノスーツ法を用い、(A)非腫瘍vs腫瘍、各種腫瘍間、腫瘍幹細胞vs非腫瘍幹細胞での細胞表面・細胞内超微細構造の検討、(B)中心体・一次繊毛の観点からの検討、(C)DNA修復の観点からの検討、の3つの柱を立てて、HE病理標本上の電顕レベルでの今後の医学・医療の発展に役立つ腫瘍形態学的特性を新規に同定することに取り組む。
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Diagnostics (Basel)
巻: 11 ページ: 1193
10.3390/diagnostics11071193