研究課題
ウレタンによる肺腫瘍誘発モデルにおける抗酸化酵素PRDX4の役割を検討した。本研究の目的は、発がん物質によって誘発された肺腫瘍の発生に対するPRDX4の過剰発現の影響を調べることにある。ヒトPRDX4過剰発現Tgおよび非Tgマウスにウレタンを腹腔内に注射し、肺腫瘍を誘発した。 六か月後、腫瘍の数と大きさを2群間で比較し、腫瘍発生の違いおよびそのメカニズムを検討した。ウレタン刺激後、Tg群においては、肺組織と血清でのPRDX4発現が増強された。 Tg群では腫瘍の数と直径が共に非Tg群より有意に増加した、体重はTg群で低かった。非Tg群と比較して、Tg群では腫瘍細胞の増殖が増強された一方、腫瘍細胞のアポトーシスが抑制された。全身の酸化ストレスと肺腫瘍の酸化ストレスは、PRDX4の過剰発現によって抑制された。 Tg腫瘍では、酸化促進酵素と抗酸化酵素のバランスも低レベルにシフトした。肺腫瘍組織では、腫瘍内微小血管の密度はTg群で高かった。マクロファージの浸潤はTg腫瘍で増強されたが、Tリンパ球の浸潤は2群間で差がなかった。Tg群ではNF-κBとc-junの活性化の増強による腫瘍でのIL-1βおよびMMP9を含むcytokinesの発現も上昇した。PRDX4の過剰発現は、腫瘍の微小環境を調節し、ウレタンによる肺癌誘発モデルにおける腫瘍の発生を促進する。肺癌治療における抗酸化酵素の応用が期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
実際これまでに、PRDX4の、肺癌に対する詳細な防御メカニズムに関する論文を公表出来たばかりでなく(「The overexpression of PRDX4 modulates the tumor microenvironment and promotes urethane-induced lung tumorigenesis」がOxidative Medicine and Cellular Longevity誌に受理、Published 29 December 2020)、2021年4月に行われる第110回日本病理学会総会(東京)においても先駆けて発表させていただく。
PRDX4の過剰発現は、腫瘍の微小環境を調節し、ウレタンによる肺癌誘発モデルにおける腫瘍の発生を促進し得ることを突き止めた。今後は、肺癌治療における抗酸化酵素の応用が期待されるため、さらに詳細な分子メカニズムの解明、一方で生体応用へ向けた新たなモデルの構築を模索していきたい。
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Oxid Med Cell Longev
巻: 2020 ページ: 8262730.
10.1155/2020/8262730
Am J Transl Res
巻: 12(6) ページ: 2726-2737
http://www.kanazawa-med.ac.jp/~clinpath/