研究課題
本研究では生体防御システムの一つとして外界との境界に位置する粘液の産生について大腸を中心とした解析を行ってきた。大腸の粘液産生を担っているのは杯細胞である。これまでにケモカインCCL28が、その欠損マウスの解析から大腸杯細胞の分化制御や機能制御に関わる可能性を見出し、培養細胞の解析からはCCL28を介したシグナル経路にはHippo経路(細胞増殖や細胞死を制御して器官の細胞数を制御する経路)の標的分子のYAPを介している可能性を見出してきた。令和4年度は令和3年度に引き続き、杯細胞分化のモデル細胞として実績があり、Notch阻害によって杯細胞への分化が誘導されるヒト結腸腺癌細胞株HT-29細胞を用いて杯細胞分化に及ぼすCCL28の作用についてさらに解析を行った。その結果、siRNA処理により発現をノックダウンした細胞の解析から、杯細胞分化に関わるCCL28受容体としてCCR10が選択的に作用していて、CCL28のもう一つの受容体CCR3には依存しないことが明らかになった。また、反対にCCR10を過剰発現したHT-29細胞では粘液産生増加が確認され、YAPの発現量も有意に増加した。さらにCCR10を介した経路ではYAPの結合相手として、TEAD1/4あるいは、KLF4が関与することも明らかにした。これら解析結果から、CCL28がCCR10/YAP経路によりTEAD1/4やKLF4を介して杯細胞への分化促進に作用する分子機構の存在が確認された。また、別のヒト結腸腺癌細胞株のCaco-2細胞を用いて、大腸上皮細胞に及ぼすケモカイン系の作用について別角度からも並行して解析を行った。その結果、ケモカイン受容体CCR3の阻害が、がん悪性化との深い関連が指摘されている倍数体巨大化がん細胞の誘導にPI3K/Akt/GSK-3βシグナル経路を介して関わることを見出した。
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Cancer Gene Therapy
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https://www.himeji-du.ac.jp/news/2023/02/26727/
https://www.himeji-du.ac.jp/news/2023/02/26729/