BCL11B変異によるヒト原発性免疫不全症発症機序の解明

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K07459
• 研究機関: 国立研究開発法人理化学研究所
• 研究代表者: 奥山 一生 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (60712750)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: ヒト原発性免疫不全症 / T細胞初期分化 / Bcl11b / 転写制御

研究実績の概要

BCL11B遺伝子のp.N441K変異がどのような作用機序でヒト原発性免疫不全症を発症させるのかを解明するために、ヒトp.N441Kに相当するマウスBcl11b遺伝子p.N440K変異を導入した遺伝子改変マウスを作製し解析を行った。Bcl11b p.N440Kマウスでは新生児期にT細胞分化が遅延すると共に、異常なNKp46陽性細胞集団が胸腺内に出現する。これまでの研究成果から、胸腺内でのNKp46陽性細胞の分化はBcl11aが抑制することを明らかにしている。Bcl11b p.N440Kマウスでは、p.N440K変異タンパク質がBcl11bのみならずBcl11aに対しても優勢阻害効果を発揮することで、Bcl11aによる分化抑制が干渉されていると考えられる。Bcl11b p.N440KマウスにおいてNKp46陽性細胞の分化がどのようにして誘導されているのかを検討するために、p.N440Kタンパク質の分子間相互作用を網羅的に解析した。その結果、p.N440K変異によりBcl11bとTcf1との相互作用が減衰することが分かった。Tcf1の転写活性を測定したところ、Bcl11b存在下でTcf1の転写活性は低下したことから、Bcl11bはTcf1と結合することでTcf1の機能を阻害することが示唆された。試験管内分化誘導法を用いてNKp46陽性細胞分化におけるTcf1の機能解析を行ったところ、Tcf1発現を阻害することでNkp46陽性細胞分化が抑制されることが分かった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Bcl11b p.N440K変異タンパク質の分子間相互作用を解析することで、Bcl11bによるTcf1の転写活性抑制が、正常な胸腺内T細胞分化に重要であることを見出した。これまでの研究成果をもとに、現在論文を執筆中である。

今後の研究の推進方策

論文を作成し、学術雑誌に投稿予定である。

研究成果

• [雑誌論文] B Lymphocyte Specification Is Preceded by Extensive Epigenetic Priming in Multipotent Progenitors (2021)
  • 著者名/発表者名: T. Strid, K. Okuyama, J. Tingvall-Gustafsson, J. Kuruvilla, C. Jensen, S. Lang, M. Prasad, R. Somasundaram, J. Ahsberg, S. Cristobal, S. Soneji, J Ungerback, and M. Sigvardsson
  • 雑誌名: The Journal of Immunology 巻: 206 ページ: 2700～2713
  • DOI: 10.4049/jimmunol.2100048
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] A variant in human AIOLOS impairs adaptive immunity by interfering with IKAROS (2021)
  • 著者名/発表者名: M. Yamashita, H.S. Kuehn, K. Okuyama, S. Okada, Y. Inoue, N. Mitsuiki, K. Imai, M. Takahi, H. Kanegane, M. Takeuchi, N. Shimojo, M. Tsumura, A.K. Padhi, K.Y.J. Zhang, B. Boisson, J.L. Casanova, O. Ohara, S.D. Rosenzweig, I. Taniuchi, and T. Morio
  • 雑誌名: Nature Immunology 巻: 22 ページ: 893～903
  • DOI: 10.1038/s41590-021-00951-z
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] T and B cell abnormalities, pneumocystis pneumonia, and chronic lymphocytic leukemia associated with an AIOLOS defect in patients (2021)
  • 著者名/発表者名: H.S. Kuehn, J. Chang, M. Yamashita, J. Niemela, C. Zou, K. Okuyama, J. Harada, J. Stoddard, R. Baxter, E. Hsieh, M. Garofalo, T. Fleisher, T. Morio, I. Taniuchi, C. Dutmer, and S. Rosenzweig
  • 雑誌名: Journal of Experimental Medicine 巻: 218 ページ: -
  • DOI: 10.1084/jem.20211118
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] A de novo missense mutation of Bcl11b gene causes an abnormal thymopoiesis (2021)
  • 著者名/発表者名: Kazuki Okuyama, Motoi Yamashita, Kazuaki Matsumoto, Michiko Ohno-Oishi, Satoshi Kojo, Tomohiro Morio, Hideyuki Yoshida, Ichiro Taniuchi
  • 学会等名: 日本免疫学会
• [学会発表] 亜鉛フィンガー転写因子Bcl11bによる遺伝子発現制御とクロマチン再構成 (2021)
  • 著者名/発表者名: 奥山一生
  • 学会等名: 霊長類医科学フォーラム
  • 招待講演