BCL11BはTリンパ球分化に重要な転写因子である。BCL11Bのp.N441K変異は、Tリンパ球欠損を呈する先天性免疫異常症の患児に同定された。先行研究から、BCL11B p.N441K変異タンパク質は優勢阻害効果を有することが予想されるが、Tリンパ球分化不全を引き起こす作用機序は不明であった。そこでヒトp.N441Kに相当するBcl11b p.N440K変異を有するマウスを作製し、その表現型を解析したところ、新生児期のTリンパ球分化不全に加えて、胸腺内における異常な細胞集団の出現を認めた。この細胞集団はNK様細胞であることが示唆され、それらはBcl11b欠損マウスの胸腺には出現しない。このことからBcl11b p.N440Kは自身のみならず他のタンパク質機能も阻害すると予測された。Bcl11aはBcl11タンパク質に属し、二量体化を介するN末のアミノ酸配列はBcl11a、Bcl11bで保存されている。Bcl11a欠損マウスの胸腺を解析したところ、Bcl11b p.N440Kマウスと同様にNK様細胞の出現を認めた。つまり胸腺におけるNK様細胞の分化はBcl11aによって抑制され、その抑制機能はBcl11b p.N440Kによって阻害されると考えられる。次に、NK様細胞分化を誘導する因子の探索を行った。Tcf1はNK細胞分化を制御するが、p.N440K変異はBcl11bとTcf1の相互作用を減衰させることが分かった。Bcl11b p.N440Kマウスの胎児肝細胞を培養すると生体内と同様にNK様細胞が誘導されたが、これはTcf1依存的であった。以上の結果から、p.N440K変異Bcl11bはBcl11aの機能を阻害すると同時に、Bcl11bによるTcf1抑制効果を障害することで、胸腺内におけるNK様細胞の分化を誘導すると考えられた。
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