研究課題
遺伝情報に基づいたタンパク質の合成は、全ての生物において生命活動の根幹をなす生体反応である。リボソームはこのタンパク質合成のプロセスである翻訳を担うRNA-タンパク質の複合体である。リボソームはATP産生の重要な細胞小器官であるミトコンドリアにも独自のもの(mtリボソーム)が存在し、生物種種間で構造が多様であることが知られている。これまでのところ、マラリア原虫には41個のmtリボソームタンパク質の存在が推定されているが、この数は、82個のタンパク質で構成されているヒトのmtリボソームと比べると極めて少ない。また、同原虫のミトコンドリアDNAには、3つのタンパク質がコードされるのみであり、tRNAは存在しない。本研究では、マラリア原虫のmtリボソームが最小限の翻訳機構を備えていると考え、多様なmtリボソームの進化の要因を明らかにすることを目的としている。今年度は、マラリア原虫のmtリボソーム試料の調整に重要な、原虫感染赤血球の濃縮、および、mtリボソームのカラム精製のための組換え原虫の作出について検討した。その結果、原虫由来の溶解液は、感染原虫をサポニン処理した場合に高濃度のものを得ることができることがわかった。次に、mtリボソームタンパク質にタグタンパク質を融合させたマラリア原虫を作出した。マウス感染によって得られた組換え原虫を用いて高濃度の原虫溶解液を作製し、ウエスタンブロッティングによって、カラム精製に必要なタグタンパク質を検出した。以上の実験条件の検討による成果は、次年度からの実施課題であるマラリア原虫のmtリボソームのカラム精製に貢献することが考えられる。
3: やや遅れている
今年度はまず、マラリア原虫のミトコンドリア(mt)リボソーム単離のため試料調整方法の検討を実施した。磁気ビーズによる感染赤血球の濃縮、密度勾配遠心法による感染赤血球の分離、サポニンによる原虫の単離について検討したところ、サポニンによる単離法が原虫の回収率が高かった。次に、マラリア原虫のmtリボソームを精製する際のTAP(Tandem Affinity Purification)タグ法を実施するために、mtリボソームタンパク質の一つであるmtLRP16にProtein AおよびCalmodulin-binding protein(CBP)を融合した組換え原虫を作出した。それぞれの遺伝子の融合は、当該領域のDNAの塩基配列およびRNAの発現によって確認した。Protein Aの存在の確認はウエスタンブロッティングによって実施し、予想サイズのシグナルを検出できている。
来年度は、より多くの組換えマラリア原虫感染赤血球を準備し、mtリボソームの精製を、Protein Aを標的としたカラム精製、CBPを標的としたカラム精製、の二段階で実施し、高純度の原虫mtリボソームを調整する予定である。高純度のmtリボソームが得られれば、質量分析計による網羅的タンパク質の解析を行う。さらに、mtリボソーム内に存在することが予測されるミトコンドリアrRNAおよびtRNAの解析も実施する。また、今年度にヒト熱帯熱マラリア原虫(Pf)のin vitro培養の実施態勢を整えることができたので、Pfを用いて同様の研究を推進する計画も立てている。Pfのin vitro培養では発育ステージの同期が可能であり、各発育ステージにおけるmtリボソームの構成タンパク質の違いが確認可能となる。
分担研究者(渡邊洋一)が7,125円の次年度繰り越しを行ったため。次年度は、請求した助成金と合わせてマラリア原虫のリボソームの構成成分解析に係る実験経費として使用する予定である。
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Scientific reports
巻: 11 ページ: 6455
10.1038/s41598-021-85290-7
Journal of Ethnopharmacology
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