アフリカトリパノソーマ原虫は、ベクターと宿主という異なる寄生環境に適応するために、細胞分化を伴う複雑な生活環をもっている。原虫は、ベクターであるツェツェバエの吸血時に、非増殖性のメタサイクリック型が宿主に感染し、その後、血流型へと発育し、増殖することで、疾病を引き起こす。本研究は、このメタサイクリック型から血流型への細胞分化の分子メカニズムを解明することを目的とし、全生活環ステージのin vitro培養が可能なTrypanosoma congolenseを用いたプロテオーム解析を中心に実施した。in vitroでメタサイクリック型虫体を調製し、分化誘導条件下においた。分化誘導下の虫体が発現するタンパク質の経時的な変化の網羅的解析、及び異なる動物種の血清を添加した培地を用いて分化誘導した際に虫体が発現するタンパク質の網羅的解析を、ショットガン解析により実施した。得られた情報を基に、発現量に変化がみとめられた原虫タンパク質について、ゲノムデータベース等を用いて、予想される生物機能等に関する情報を収集した。原虫の細胞分化において重要な役割を果たすと考えられる生物現象のうち、特に細胞増殖や細胞接着等に関係することが予想されるタンパク質を中心に、リストアップを行った。最終年度は、T. congolenseのタンパク質の生物機能解析を実施する基盤の整備を進めた。近年報告されたT. congolenseにおいて安定的にテトラサイクリン誘導性RNA干渉を実施するためのプラスミドベクターを導入した。これらの成果は、メタサイクリック型から血流型への細胞分化という原虫感染にとって必須の生物現象の分子メカニズムの解明に資するものと考えている。今後は、本研究の成果を駆使することで、原虫の細胞分化に関係するタンパク質の同定と、これを標的とした新規疾病制御法の開発に向けた研究を展開する予定である。
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