研究課題
芽殖孤虫症の極めて高い悪性度は、幼条虫による人体内でのあらゆる臓器における無秩序な増殖と転移、および既存の抗寄生虫薬の無効果性に起因している。令和2年度では以下の研究を遂行した。1)マウス腹腔内における孤虫の増殖を個別に画像から評価し、ほぼ一定の割合で虫体積が増加するのを確認した。この評価系を用いて抗条虫薬であるプラジカンテル(ビルトリシド600mg錠)および体内組織寄生性の幼条虫に対する治療として用いられているアルベンダゾール(エスカゾール200mg錠)を通常の処方箋量とその10倍量を連日投与し、それらの効果を検討した。その結果、いずれにおいても無処置群と比較して有意な差を認めなかった。2)ホモジナイズした孤虫の可溶性成分をウサギに投与して得た抗血清に、孤虫に対する高い抗体価(IgG抗体)を認めた。3)孤虫は大きく2つの形態に分けられる。ワサビ型と称される棒状形態とメデューサ型と称される多様に分岐した形態である。その2形態について組織学的に生物活性を検討したところ、前者は休止状態に近く後者は活発に活動していることが予想された。既存の抗寄生虫薬の効果を評価するマウス感染系を確立できたことは、今後の治療薬評価判定につながる大きな前進となった。また、孤虫に対する抗血清は、その虫体におけるターゲットの検索結果とともにマウス体内の転移病巣の病理学的解析に大きく貢献するのみならず、孤虫に対する免疫学的作用の検討に資する。形態学的解析結果は宮崎大学の共同研究者を筆頭著者とする論文(Communications Biology, in press)の一部に組み込まれた;プレスリリースの公開を予定。
4: 遅れている
新型コロナウイルス感染の拡大によって、立場上から実験遂行時間および労力が大幅に削減された。
新型コロナウイルス感染は拡大傾向にあり、引き続き実験遂行が大幅に削減されている状況に変わりはないが、体制としては落ち着いてきていることから、可能な限り研究計画に則って成果を出してゆきたい。今後の計画を以下に示す。1)マウス感染系による治療薬評価;評価系をブラッシュアップし、治療効果の見込める薬剤を抗蠕虫薬に限らず、抗原虫薬、抗真菌薬、抗がん薬などに広げ、それらの組み合わせについても検討する。2)孤虫の可溶性成分に対するウサギ血清を用いた解析;まず、抗血清の認識する部位を孤虫の組織切片を用いて検索する。さらに、マウス体内の転移病巣における反応部位を検討する。また、感染したマウスの血清との比較で、生きた孤虫の感染に対する宿主免疫応答を検証する。3)孤虫の増殖機序解析;孤虫のマウス腹腔内投与後、異なる種類のDNA合成マーカーをマウスへ定期的に投与し、回収した孤虫の組織切片からそれぞれの感染時点で標識された細胞の局在を孤虫の成長・増殖とともに解析する。4)上記2)および3)の結果を基に、酵素分解した孤虫の当該成分をマウスへ投与して転移形成に寄与する孤虫成分を特定する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Communications Biology
巻: N/A ページ: N/A