芽殖孤虫症の極めて高い悪性度は、孤虫(親の種類が不明な条虫の幼虫型)による人体内でのあらゆる臓器における無秩序な増殖と転移、および既存の抗寄生虫薬の無効果性に起因している。世界的にも稀な寄生虫症であるが日本での発生率は高いために、予防・治療対策に向けた基礎研究・開発を本邦で遂行する事に大いなる意義がある。 令和4年度には以下の研究成果を得た。 令和3年度に選定した芽殖孤虫のミトコンドリアの呼吸酵素活性を阻害する薬剤の効果を培養系にて検討した。その抗がん剤として有用性のある薬剤を孤虫と好気あるいは嫌気条件下で培養し、色素試験で孤虫の生死判定を行った。さらにマウス腹腔内へ移植し一定期間後に回収される孤虫の状態を検討した(生体内生存能試験)。その結果、薬剤効果を認め、それは好気培養でより顕著であった。色素試験および生体内生存能試験では嫌気培養での薬剤効果が十分に見出せなかったが、形態学的には嫌気培養でも部分的な虫体組織の変性を認めた。薬剤効果は培養開始5日目には光学顕微鏡レベルで認めるため、ミトコンドリアへの影響はそれ以前に起きていることが予想された。ミトコンドリアの形態観察は電子顕微鏡レベルでの解析が必須であり、現在遂行中である。 同様の薬剤効果は本邦で開発された2種類の薬剤でも認められ、今後はこれら薬剤を用いた培養系での効果判定に加え、マウスを用いた感染モデルにおける投薬効果解析に進展する。同時に、感染モデルに頼らない効果判定方法の更なる開発を目指す。
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