糞線虫に感染すると、生体はTh2型免疫応答によって抗体産生、腸管粘膜肥満細胞を誘導し、感染虫体を排除することが知られている。さらに、主にIL-33の働きで自然免疫細胞(ILC2)が活性化し、trainedあるいはmemory ILC2になり、他種の寄生虫の感染に対しても抵抗性を示すようになる。2021年度までに、糞線虫に対する免疫応答にTSLPが関与すること、その作用はCD4依存性に肥満細胞を誘導することと、CD4非依存性に感染抵抗性を示すことを明らかにしている。さらに、このTSLPの作用は寄生虫が腸管に到達するより前の、おそらく肺を通過する際に作用しているものと考えられた。また、ILC2活性化に必須のIL-33の制御に関わるRBBP9は糞線虫感染抵抗性には関与しないが、その後の別種寄生虫(鉤虫)感染に対する抵抗性に影響があることを見出した。2022年度は、RBBP9欠損マウスでは感染7-14日後の肺のILC2の増加に関与することを見出した。またTSLPR欠損マウスも糞線虫感染後の鉤虫感染抵抗性に関与することを見出した。同様の結果はIL-13欠損マウスでも認められた。RBBP9とIL-13はともにIL-33の誘導に関わることから、感染によって遊離、産生されたRBBP9やIL-13がIL-33の発現を増加させることがILC2のメモリー化に重要であることが考えられた。またTSLPはCD4非依存性に感染抵抗性に寄与することからTSLPR/Rag2重欠損マウスを用いて糞線虫感染実験を行ったが、Rag2欠損マウスと比較して有意な差は認められなかった。このことからTSLPの標的細胞はNKTやγδT細胞などの非CD4陽性T細胞である可能性が考えられた。以上よりTSLPが糞線虫感染初期の免疫応答と訓練(trained)免疫の両方に関与することが明らかとなった。
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