研究課題
SFTSをはじめとするマダニ媒介感染症の発生には、ベクターとなるマダニ類、その宿主となる野生動物、さらに野生動物が生息する森林とが相互に関係している。そのため、SFTS等の人獣共通感染症によるヒトの健康に対するリスクを評価し、戦略的な対策を講じるには、このような相互関係を定量的に評価する必要性があると考えた。本年度はこれまでに調査した西日本のSFTS流行地と近隣の非流行地のマダニの生息環境を比較するために使用する地理情報システム(GIS)等の解析環境を整え、マダニ類の捕獲地点情報と野生動物の分布、国土数値情報等のオープンデータや気温、降水量などを利用可能にするための準備を進めた。マダニ類の分布や生育を規定する要因を統計モデルを用いて定量評価する枠組みを試作し、地域スケールにおけるマダニ類の分布規定要因を高精度で定量評価することができた。さらに、新たに構築した統計モデルを用いて、対象地域内における空間分布を可視化したリスクマップを作成する一連の枠組みを検討した。次いでマダニ類の吸血源同定法の確立を検討した。脊椎動物12S ribosomal RNA遺伝子を標的としたユニバーサルプライマーを用いて、マダニから抽出したゲノムDNAを増幅し、その増幅産物をtailed-primer法で次世代シーケンシング(NGS)用のライブラリを安価に構築するという原理である。本年度は鳥類種の検出を目標にPCRの増幅温度、酵素等の条件至適化を行った。得られた最適条件の下に野外捕集マダニから抽出されたDNAから吸血源動物種の同定を試みた。得られたNGSリードをBLAST検索によりデータベース上に登録されている脊椎動物の配列と照合し種を同定した。先行研究で用いたRLB法による判定結果と概ね一致したが、今回開発したNGSベースの方法では、より詳細な種レベルでの分類が可能であることが明らかになった。
3: やや遅れている
本年度もCOVID-19感染拡大の影響で野外調査が全く実施できず、補足データを取ることができなかった。しかし、解析方法ならびに解析モデルの検討を行い、これまでの結果を検証した。その結果、今後のリスクマップ作製に繋がる成果を得ることができた。
2022年度もCOVID-19の完全な収束は期待できないと思われるが、少しでも状況が改善すればできるだけ早く野外調査を行いマダニの捕集ならびにマダニ由来病原体の検出を行う。環境情報もできるだけ多く集める。SFTS患者情報の入手は困難であるが、再度試みる予定である。国立感染症研究所所管の NECID情報が使用できなければ、各自治体への情報提供の協力依頼を個別に検討することも視野に入れている。
野外調査が実施できなかったため、次年度に繰り越した。調査継続の費用、ならびに論文投稿のための費用に使用する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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