マラリア原虫赤血球内寄生期の厳密な遺伝子発現制御機構は、それを担う転写因子の正体を含めて詳細がわかっていない。申請者は熱帯熱マラリア原虫のトロホゾイト期に発現する遺伝子のプロモーターに作用して転写活性化する因子PREBPを同定した。更にバイオインフォマティクス 解析にてPREBPと類似構造、KHドメインを持つ新規因子Aを同定した。本研究では PREBPと因子Aの機能を解析することによって、マラリア原虫赤血球内寄生期の細胞周期進行を支える転写制御機構の解明に迫ることを目的とする。PREBPを対称としたクロマチン免疫沈降と次世代シーケンサーによる網羅的ChIP-Seqによって得られた遺伝子群を機能別に分類した結果、PfEMP1やrifinなどの赤血球表面抗原遺伝子が43%、キナーゼ/ホスファターゼ遺伝子が8% 、DNA/RNA結合タンパク遺伝子が6%、脂質代謝に関わる遺伝子が5% 、その他および機能未知タンパクの遺伝子が38%となっており、PREBPによって原虫の抗原多型のswitching、house keepingな代謝などの、生育の根幹に関わる遺伝子群の発現が調節されている可能性が考えられた。Luciferaseアッセイの結果、一部のrifin遺伝子プロモーターでPREBPによる遺伝子発現現抑制効果が示唆された。今年度は、PREBPと類似構造を持つ新規因子Aがどのような遺伝子群の発現に関わっているのかについて探索する目的で、因子Aを対象とした網羅的ChIP-Seqをおこなった。その結果、得られた遺伝子の大半がPfEMP1やrifinなどの赤血球表面抗原遺伝子であった。以上の結果から、マラリア原虫の宿主免疫忌避に関わっている、表面抗原遺伝子群の発現および発現抑制には、複数のPREBP類似構造を持つ因子が関与している可能性が考えられた。
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