研究実績の概要 |
病原真菌カンジダ・グラブラータは、カンジダ症の治療に頻用されるアゾール系抗真菌薬(エルゴステロールの合成阻害剤)に対して低感受性であるため易感染患者からの分離頻度が年々増加し問題となっている。低感受性の原因として、宿主からコレステロールを取り込み、利用する宿主コレステロール取り込み機構が挙げられている。しかしながら、宿主血中から取り込まれたコレステロールが、どのような輸送制御機構を介してグラブラータの細胞内で利用されているかについては不明である。本研究では、宿主血清コレステロールの細胞内輸送への関与が予想されるミトコンドリアに存在するERMES複合体のステロール輸送への関与について解析を行なった。 ERMES複合体の各破壊株(mmm1, mdm12, mdm34, mdm10, gem1破壊株)について、フルコナゾール(エルゴステロール合成酵素Erg11pを阻害)に対する感受性度合いを調べたところ、mmm1, mdm12, mdm34破壊株は野生株同様に感受性を示すのに対し、mdm10, gem1破壊株は耐性を示した。フルコナゾールは、エルゴステロールの合成が阻害され毒性のステロールが生産されることで抗真菌作用を示すことが知られているが、その作用機序は不明である。そこで、mdm10, gem1破壊株のフルコナゾール耐性の原因として、これら因子の欠失によりミトコンドリアへの毒性ステロールの輸送が阻害される可能性について検討することにした。Mdm10pとGem1pは、ミトコンドリアの外膜に存在し、Mdm34pを介してERMES複合体を形成している。Gem1pはERMES複合体の制御因子としての機能が示唆されているGTPaseで4つの制御ドメインを持っている。現在、Gem1pに焦点を絞り、フルコナゾール耐性に必要なドメインの特定を行なっているところである。
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今後の研究の推進方策 |
Gem1pはERMES複合体の制御因子としての機能が示唆されているGTPaseで4つの制御ドメインを持っている。フルコナゾール耐性に必要なドメインを明らかにするため、Gem1pの各制御ドメインについてアミノ酸置換を行い7種類の変異gem1を作製する。各変異gem1を発現させた株のフルコナゾールへの耐性度合いについて調べ、耐性に必要なアミノ酸を特定する。また、変異gem1の細胞内局在を観察し、耐性と局在との関連性について調べる。さらに、mdm10, gem1破壊株のフルコナゾール耐性の原因として、これら因子の欠失によりミトコンドリアへの毒性ステロールの輸送が阻害される可能性について検討するため、mdm10, gem1破壊株における毒性コレステロールのミトコンドリアへの流入の有無を調べる予定である。
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