研究実績の概要 |
病原性カンジダ種は口腔、皮膚や消化管などに常在する真菌であり、高齢者や免疫抑制剤などの使用により免疫力の低下した患者において、重篤な日和見感染症を引き起こす。1990年代からカンジダ症の治療において、細胞膜の構成因子であるエルゴステロール合成を阻害するアゾール系抗真菌薬が頻用されるにつれ、カンジダ種の中でも、アゾール系抗真菌薬に対する感受性が低いカンジダ・グラブラータ(Candida glabrate, 以降グラブラータ)の症例数が年々増加し問題となっている。グラブラータは、宿主血中のコレステロールを取込み、自身のステロールとして利用する宿主コレステロール取込み機構をもつが、取込まれたコレステロールが、どのようなメカニズムで代謝されるか不明である。 昨年度に続き、ミトコンドリアと小胞体の接触部位に存在するERMES複合体のうち、制御因子とされるgem1破壊株のフルコナゾール耐性に注目し解析を進めた。解析の結果、gem1破壊株では、薬剤排出ポンプであるCDR1の転写量が増加していた。また、gem1破壊株のフルコナゾール耐性は、CDR1やその転写因子であるPDR1依存的であった。さらに、ミトコンドリアにおいて過剰な活性酸素種(ROS)の生産が観察された。ROSを低下させる試薬である N-アセチル-L-システイン(NAC)の添加により、gem1破壊株におけるCDR1の転写量増加が抑制されたことから、ミトコンドリアROSがPDR1を活性化させ、CDR1の転写量増加を引き起こした結果、フルコナゾールの排出が促進され、gem1破壊株がフルコナゾール耐性となると結論づけられた。本研究により、ERMES複合体がグラブラータのアゾール耐性化において、非常に重要な役割を果たすことが示唆された。
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