研究課題/領域番号 |
20K07480
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加藤 文紀 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (70452589)
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研究分担者 |
岡 広子 広島大学, 医系科学研究科(歯), 特任講師 (60452588)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 黄色ブドウ球菌 / 膜タンパク質 / トキシン・アンチトキシン システム / 細胞死 |
研究実績の概要 |
トキシン・アンチトキシン(TA)システムは、自身の生存に必須な細胞機能を停止させることで、細胞分裂の停止および細胞死を誘導するトキシンと、そのトキシン活性を中和するアンチトキシンから成る機構で、ほぼ全ての細菌において広く存在する機構である。TAシステムは、細菌のストレス応答、病原性、バイオフィルム形成、薬剤感受性や薬剤抵抗性に関与することが明らかになりつつある。本研究では、我々が新規に見出した黄色ブドウ球菌TsaA/TsaT TAシステム が、黄色ブドウ球菌細胞内のどこで、どのように(活性部位、標的、メカニズム)機能して細胞死を誘導するのか、および黄色ブドウ球菌においてどのような生理的な役割を有しているのかを解明する事を目的としている。当該年度はTsaTトキシンタンパク質のアミノ酸残基をアラニン置換しトキシン活性を解析することで、トキシン活性に重要なアミノ酸残基の同定およびアンチトキシンとの作用メカニズムの解明を試みた。大腸菌および黄色ブドウ球菌を用いて解析した結果、TsaTトキシンタンパク質の2番目のアスパラギン残基および6番目のメチオニン残基がトキシン活性に重要であることを明らかにした。さらに、TsaTトキシンの27、28、34および35番目のリジン残基(塩基性アミノ酸)がTsaAアンチトキシンとの中和に重要なアミノ酸残基であることを明らかにした。これらの結果は、昨年度までに明らかにしているアンチトキシンタンパク質のアンチトキシン活性に重要な酸性アミノ酸の結果と合わせて、TsaAとTsaTの側鎖間で塩橋によるタンパク質複合体が形成され、トキシン活性が中和されていることを示唆する結果である。さらに黄色ブドウ球菌における生理的な役割を解明することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定通りTsaTトキシン活性に重要なアミノ酸残基およびTsaAアンチトキシンとの中和活性に重要なアミノ酸残基の同定に成功したが、黄色ブドウ球菌におけるTsaA/TsaT 遺伝子の生理的な役割の解明には至っていない。黄色ブドウ球菌のTsaA/TsaT遺伝子欠損株およびTsaT遺伝子過剰発現株を用いて、病原性因子産生、薬剤感受性、薬剤抵抗性を有するバイオフィルム形成に関して解析したが、現在までのところ顕著な表現型の変化を見出せていない。TsaTトキシンの細胞毒性が強く、黄色ブドウ球菌細胞内ではTsaT遺伝子の発現は非常に強く抑制されていることが原因として考えられ、計画を変更し問題解決のためTsaTトキシンが発現、機能する生理的な条件を探索する必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
黄色ブドウ球菌におけるTsaA/TsaT TAシステムの生理的な役割を解明するために、当初の計画を変更し問題解決のためTsaTトキシンが発現、機能する生理的な条件を探索する必要があると考える。黄色ブドウ球菌を様々な環境下で培養した際のTsaA/TsaT遺伝子の発現パターンをRT-PCR法により解析し、TsaTトキシンが発現、機能する生理的な条件を解析する。また、TsaTトキシンの過剰産生株が嫌気条件下で毒性を示さないことから、黄色ブドウ球菌に種々の酸化ストレス(過酸化水素、次亜塩素酸、パラコート)を作用させた際のTsaTトキシン活性の解析および、TsaA/TsaT遺伝子欠損株を用いた酸化ストレス応答を解析する。さらに、抗菌薬作用時のTAシステム遺伝子の発現パターン解析、 RNA-Seqによる抗菌薬作用時の網羅的遺伝子発現解析により、TsaA/TsaTの関与を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、該当年度において、TsaA/TsaT遺伝子欠損株の網羅的転写解析のため、RNA seq解析を行う予定であったが、遺伝子欠損株の表現型解析において顕著な変化が見られなかったため、計画を次年度に変更し、TsaT遺伝子の発現パターンの解析を行うこととしたため、次年度使用額が生じた。次年度においてRNAseq解析を行う。
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