百日咳菌を含むボルデテラ属細菌は多くのグラム陰性細菌に保存されている病原因子分泌装置であるIII型分泌装置を有している.これらの細菌はエフェクターと呼ばれる一群のタンパク質を菌体内から宿主である哺乳動物細胞質内にIII型分泌装置を介して移行させる.ボルデテラ属細菌はBteAと呼ばれるエフェクターを宿主細胞内に移行させる.宿主細胞にはBteA依存的に細胞膜破壊を伴う細胞死が誘導される.本研究期間では, BteAが宿主細胞に移行後,どのような挙動をとるのか解析するとともに,百日咳菌がどのような環境下でBteAを産生・分泌するのかについて解析を行った.ボルデテラ属細菌のうち,主にヒト以外の動物に感染する気管支敗血症菌についてはBteAの産生・分泌条件が明らかになっていたが,ヒトに感染する百日咳菌が効率的にBteAを産生・分泌する条件は不明であった.我々の研究により,百日咳菌はアスコルビン酸等の還元剤存在下ではBteAの産生が抑制される一方で,これらの還元剤を除去した培地中ではBteAを効率的に産生・分泌し,この条件下で宿主細胞にBteA依存的な細胞死を誘導することを明らかにした.これらの結果から百日咳菌がどのような環境下で病原性を発揮するのかの一端が明らかになった.またBteAを分泌する装置であるIII型分泌装置の軸となるロッド状のタンパク質はBcr4と呼ばれる,これまで機能不明であったタンパク質によって菌体内で安定に維持されることを明らかにした.この細胞死はアクチン重合依存的であることはこれまでの研究により明らかになっていたが,どのようなシグナル伝達経路を介して誘導されるのか,あるいはBteAがどのような宿主細胞側因子と相互作用するのかは不明であった.本研究ではBteAと相互作用する宿主側因子の候補としてERMファミリータンパク質を見出し,さらに解析を進めている.
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